カラン

女のカランのレビュー・感想・評価

(1948年製作の映画)
4.0
窃盗、美人局、強盗、傷害、たぶん詐欺などを繰り返す、足を怪我している、自称復員兵の男は押し入り強盗の際に警官を負傷させて、逃亡中。その男が踊り子をしている孤独な女に箱根駅に来いと強引に言い残す。ずるずるの恋人であるのか、女は箱根駅に向かう。。。


箱根に着くと、今度は浜松に逃げようと男はいうが、熱海の辺りで飛び降りて、ほうぼう、野畑や海辺や商店街をひたすら歩き回り、最後は火事場を走り抜ける。本作を映画とし、熱海周遊しながらカメラを回しただけのビデオではなくしているのは、2つである。男と女のうらびれた逃避行の物語と撮影である。

前者について語るべきことは少ないようである。そのためにシネフィルしか悦びを感じないであろう映画になってしまっている。後者に関しては、切り返しからのローアングルのクロースアップがつまらないし、それが割と頻繁に挟み込まれる。しかし、バストショットかそれ以上に背景が映り込む類のショットの場合には、木下恵介の画面作りの巧みさがよく出ている。ジャン・ヴィゴの『ニースについて』(1930)くらいに、熱海での運動を追跡するフレームが切り取る光景とその変化が示され、万華鏡のように刻々と変化しながら熱海が女や男の背後に映り込む。風物の切り取り方は橋本忍が脚本に書きこんだであろう挿入の四季折々よりも圧倒的にフレッシュである。しかし、この映画で惜しいのは、そうした情景以外に語るものがないところである。

木下恵介は脚本を作り、監督する。撮影は楠田浩之さんという方で、本作以前の初期の数作を除けば木下恵介の劇場公開用作品の全てを撮った方。木下恵介の妹と結婚した。音楽は弟の木下忠。というように内輪の固定したスタッフで映画を作っていたらしい。

50年ほど前まで木下恵介の国内での人気は高かったのだろうが、あまり海外受けはしなかったようで、日本文化の悲しい性なのか、今時はあまり振り返られることもない。しかし、画面作りは非常に巧みである。


レンタルDVD。1948年の映画の最初の光学ディスクへのテレシネだと思われる。画質は良くできている。
カラン

カラン