青二歳

小さな村の小さなダンサーの青二歳のネタバレレビュー・内容・結末

小さな村の小さなダンサー(2009年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

バレエダンサーの亡命ものといえば「愛と哀しみのボレロ」「ホワイトナイツ」色々あるがまさかの実話。バレエシーン多い。太っ腹!
しかしどうして芸術家の亡命を描くと西側の傲慢さが際立つのでしょうか。東側は常に悪者。ついでにアジアだから洗練されてなくて野蛮ですと。中共批判でないところがどーにも鼻白む。ホワイトナイツと構図はまるきり同じ。
とはいえ中国におけるバレエの発展はすごいなと感心。日本より輸入遅いはずなのになー。文化政策の事例として、やはり国立舞踊学校は大きい…
細かい点は丁寧です。いろんな立場を上手に描いてはいます。

ストーリーは端折って、もう「ビデオテープ」のくだりから涙が止まらない。どんな過酷な環境でもメソッドを連綿と引き継いでくれるあなた方のおかげで我々観客はその美しさと強靭さを享受できるのですね…ありがとうチェン先生!

実在のリー・ツンシン役は、英国バーミンガムバレエからツァオ・チー。若いしハマり役。いやー飛ぶねー。


以下はおおよそのストーリーとバレエ作品についてレビュー。

北京舞踊学校では、①"ジゼル"でアルブレヒトを披露。しかしあのご婦人に革命的でないという理由でさほど評価をされず、北京舞踊学校はてんやわんや。
で、先生方は意見が割れ、あり得ない展開になり、どこの"パリの炎"をパクったんだ?という革命的(?)な演目②"紅色娘子軍"(たぶん)を上演。

ムチャな開脚をやっていたツンシンを心配してくれた超まともなバレエ教師はソビエトで学んだワガノワ・メソッドをとても大切にしており、「革命的かつ中国的なバレエ」というイミフなバレエ・メソッドに迷走する北京舞踊学校からは反分子として追放される。
このチェン先生がツンシンに餞別として渡すのが、なんとミハイル・バリシニコフの③"ドン・キホーテ"。チェン先生…!ここ涙が止まりませんでした!文革の中国でよりによって西側亡命者のアメリカでの公演テープを…
宝物のように、あるいは機密のように包まれたこのビデオテープだけでもうクライマックス。

さてチェン先生が去った北京舞踊学校では、テキサスのヒューストン・バレエ団から芸術監督とプリンシパルダンサーを招聘し、マーフィー改訂④"三つの前奏曲"からパ・ド・ドゥを発表会で披露。

抜擢され研究生としてテキサスに渡っただけでもすごいがまさかの代役で、バレエ団理事のブッシュ副大統領(当時)の前で⑤"ドン・キホーテ"のパ・ド・ドゥ。
※ツンシンを代役に選ぶ際にアメリカらしいセリフが二つ登場。「彼は研究生よ、ユニオンが黙っていないわ!」→あちらでは日本と違い、ダンサーがユニオンに所属してます。でないと働けません。無茶な経営があればユニオンが動くようです。もう一つは「彼は中国人よ!…(無言の非難の目線に気付き)…その…つまりスペイン人(ドン・キホーテの青年バジル)は踊れないわ」→バレエはどこまで行っても白人のものだから。西欧人のものというより白人のもの。はい、本音がもれた感じでね。テキサスで保守本場やし。

色々あって⑥"白鳥の湖"。マーフィー版だよ…
ついで⑦水墨画を背景にした作品。これはダセエ。どうしたマーフィー。
そしてまさかのオーストラリアバレエ団マーフィー版⑧"春の祭典"来たー!V.I.Pが初めてみるバレエなのにセレクトがおかしい。
ラストは⑨"シルビア"のパ・ド・ドゥ。これ…この方の前でシルビアを踊るなんて…ここまでハマるパ・ド・ドゥはないわ…出来過ぎてる…。シルビアは弓を射るんですよ。
ああダンサーの放れと残心のマイムがたまらない。残心なんざ関係ないんですが、矢を放った後のその先を見つめるあの間がグッと来て…

あー楽しかった。泣けた。
青二歳

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