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愛と死の谷間のkossのレビュー・感想・評価

愛と死の谷間(1954年製作の映画)
3.8
やり過ぎともいえる構図とカット割りの連続、重層的な人間関係、五所平之助がつくり出すカオスに圧倒される。

オープニングの跨線橋の下を通る汽車の煙がカオスを予示する。車両基地脇の病院をトポスにする物語。院長の三股男をめぐる女は愛人の看護婦、嫉妬に狂う元内縁の女、男に興味のない女医。そこに元内縁の女が雇う探偵の尾行とその探偵を尾行する探偵、探偵と女医の恋と複雑さを重ね、さらに貧民窟の住民という圧力まで加える。ダークでカオスな世界がつくられる。

あまりのカオスに、どこを、誰を追えばよいのかわからなくなる。五所平お得意の見事なロケーションに、後景の汽車、水槽のレストラン、飛行機、亀、アイスキャンディー売りという一瞬の空隙。アイスキャンディー売りはラストに一条の閃光を放つ。このダークなカオスは胸焼けするが、粘性と執拗さがあまりに見事。

ダークなカオスを俳優たちも楽しんでいるように思える。好色で強欲な宇野重吉、ドストエフスキーの登場人物のような芥川比呂志、お婆さん役以外の北林谷栄の冷酷さ、静かな狂気の木村功、めずらしく伊藤雄之助だけは目立たない。そのほか豪華な出演陣はまるで五所平オールスターのようだ。
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