イホウジン

駅馬車のイホウジンのレビュー・感想・評価

駅馬車(1939年製作の映画)
3.8
冒険モノの王道、群像劇の最も洗練された形

西部劇そのものを初見。なるほど荒野を舞台に、冒険,アクション,友情,恋愛などなど娯楽映画のあらゆる要素を詰め込める万能なジャンルである。それが常に白人によるネイティブアメリカンの土地への侵略であるという影は常に落ち続けるが、それを考慮しても映画史的な意義はあるだろう。そのことを実感させられたのが今作である。
決して長くない映画でありながら、登場人物は割と多い。性別や職業,馬車に乗る理由もバラバラだ。それでいて見事なのは、彼ら一人一人の状況は最低限かつ的確に説明され、なおかつ登場人物同士の交流による変化も分かりやすく表現させられている点だ。恋愛も出産も逃亡劇もデスゲームも何でもあるが、そのどれもがひとつの物語として調和している。
終盤のネイティブアメリカンとの戦闘の特撮の緊張感は、CGの発達した現代でも見劣りしないレベルだ。疾走感と目まぐるしい展開、そしてそれらを観客にも体感させる脚本と技術は今日まで色褪せることはないだろう。

「敵」側の事情を一切考慮しないという点では、今作は娯楽性の高い戦争映画にも通ずるものがある。もっともそれが完全なフィクションならさほど問題ではないが、今作の場合はそれが現実に存在する人々であり、そんな彼らを単なる討伐すべき対象として描いてしまうことには、疑問を抱かざるをえない。今作に限った話ではないが、古典映画と人種主義の問題は、実に根深いものである。
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