アニマル泉

駅馬車のアニマル泉のレビュー・感想・評価

駅馬車(1939年製作の映画)
5.0
映画史に刻まれたフォードの至宝である。世界遺産だ。未来に一本だけ残す映画を選ぶような事があれば本作である。
駅馬車は6頭立てなのが良い。川の渡し場がアパッチに襲撃されていて駅馬車ごと川に突っ込んで行く、そこで初めて御者席からの見た目ショットになる。馭者バック(アンディ・ディヴァイン)と保安官カーリー(ジョージ・バンクロフト)はなんと石を馬に投げて前に進ませる。この突然の動的なショットの直後、駅馬車が平原を疾走すると、初めて駅馬車の移動ショットになる。疾走する駅馬車を並走して捉える移動ショットの運動とスピードが本作の最大の魅力だ。映画は運動であるというテーゼそのものが本作である。アパッチの襲撃の移動ショット、駅馬車が疾走しながらの馬車潜り、馬車から馬への飛び乗り、そして固定カメラで地面下から馬が走り抜けていくのを捉える「アイアン・ホース」ショット。フォードの運動神経が冴える。
駅馬車に乗るのは9人。
リンゴ・キッド(ジョン・ウェイン)
ダラス(クレア・トレヴァー)
医師ブーン(トーマス・ミッチェル)
酒行商人ピーコック(ドナルド・ミーク)
銀行頭取ゲートウッド(バートン・チャーチル)
将校夫人マロリー(ルイーズ・プラット)
ハットフィールド(ジョン・キャラダイン)
馭者バック(アンディ・ディヴァイン)
保安官カーリー(ジョージ・バンクロフト)
アパッチウェルズ中継所でマロリーが出産する場面、強調される縦廊下のショットが素晴らしい。フォードの遺作の「荒野の女たち」の縦廊下に繋がっている。リンゴとダラスの外へ出てのラブシーンが素晴らしい。フォードはやたらキスをしないのだ。「荒野の決闘」のラストでダリル・F・ザナックが勝手にキスシーンを追撮して挿入したのがいかに余計だったか、フォードのこの慎ましいラブシーンを見れば判る。
アクションはいきなり始まるのも鉄則だ。ブーンが酒を飲んだ瞬間にピーコックにアパッチの矢が刺さる。
本作は結末をオフにして女性のアップに響く音で表す。アパッチ襲撃の決着はマロリーの顔に響く騎兵隊の進軍ラッパで示される。
目的地ローズバーグに着いてからエンディングまでのフォードの捌きは完璧である。教科書だ。群像劇の終わり方として、それぞれのアップがどこで入るか?計算され尽くされている。そして山場のリンゴとプラマー三兄弟の決闘。フォードの殺気の張り方が抜群だ。ゲートウッドが群衆に捕まり人々がいなくなるとリンダが心配そうに立っている、リンゴがカーリーから銃をもらう。酒場ではブーンとプラマーが出会う。ボトルがカウンターを滑る、ショットガンでグラスが割れる、バーテンダー(ジャック・カーティス)が店の大鏡を下ろす。一方ではリンゴがダラスを送る道行が素晴らしい。殺されるかもしれない緊張感の中で歩く二人の色気が炸裂する。
決闘は1対3だ。リンゴがローアングルで構えたカメラに飛び込んで撃つ瞬間でカット。あとはダラスのアップに銃声が響く。本作は結末をオフにして女性のアップに音が響くのである。
ジョン・ウェインが素晴らしい。瑞々しく安定した鮮やかな出世作となった。
ユナイテッド・アーティスツ。白黒スタンダード。
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