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駅馬車のCinemanのレビュー・感想・評価

駅馬車(1939年製作の映画)
5.0
『駅馬車』
ジョン・フォード監督
1939年公開アメリカ
鑑賞日:2023年3月9日

真夏の赤茶けた広大なアリゾナ砂漠の道なき道をジェロニモの攻撃を気にしながらホコリまみれで疾走する6頭の馬にひかれた一台の駅馬車が疾走しています。
駅馬車に乗り合わせたのは9人。
善良な市民もいればエゴ意識丸出しの者もいれば気の弱い者もいれば差別意識まるだしの者もいれば社会的弱者もいればアウトローもいる。

まさに人生の縮図を乗せて疾走している駅馬車が目的地にたどり着く前に次々と負のカードに襲われます。

9人は果たして目的地に到着できるのか?
途中で新しい命が乗組員として増えるなんて。
駅馬車の中継地になんで騎兵隊がいないの?
ジェロニモは本当に駅馬車を襲ってくるのか?
誰が到着地まで生き残るのか?

多くのサスペンスを生みながら広大なアリゾナ砂漠を疾走する駅馬車に乗り合わせた9人の横顔です。

・リンゴ・キッド(ジョン・ウェイン)
父親と弟をプラマー三兄弟に殺され、復讐のために脱獄した銃の名手。

・ダラス(クレア・トレヴァー)
清潔な町づくりを目指す婦人連盟により町を追い出された娼婦。

ブーン(トーマス・ミッチェル)
腕のいい陽気な医師だがアルコール依存症が玉に瑕でお払い箱に。

カーリー(ジョージ・バンクロフト)
キッドの父親とは旧知の仲の人情味のある昔気質の保安官。

ルーシー・マロニー(ルイーズ・プラット)
騎兵隊の大尉をしている夫に会うため遠くバージニアから一人旅してきた夫人。

ハットフィールド(ジョン・キャラダイン)
淑女を重んじる態度は紳士だが実は悪名高いギャンブラー。

ピーコック(ドナルド・ミーク)
100%善良なお酒のバイヤーだがあまりにも善良そうなので牧師と間違えられる。

ゲートウッド(バートン・チャーチル)
炭鉱夫畜産家用銀行の頭取。

バック(アンディ・ディバイン)
ぶつぶつ愚痴をいいながらも気のいい駅馬車の御者。

みごとなシナリオでした。
勧善懲悪が社会の掟であると同時に差別意識に彩られた大西部時代の人間模様がくっきりと描かれているこの西部劇の傑作を中学生の時に初めて観た時の感動がサブスク配信映像でも感じられたのが嬉しかったです。

【Story】
1885年。
西部のアリゾナ周辺では、
ジェロニモの率いるアパッチが暴れ回っているとローズバーグから緊急連絡が入る。
しかし、通信は“ジェロニモ”という一言で途切れていた。

バック(アンディ・ディバイン)が御者を務める駅馬車がトントの町に到着する。
駅馬車にはバージニアからきた貴婦人と炭鉱夫の給料を運んできた男たちが乗っていた。
貴婦人ルーシー(ルイーズ・プラット)は騎兵隊の大尉をしている夫に会うためドライフォークへ行く予定だった。

銀行家のゲートウッド(バートン・チャーチル)は炭鉱夫の給料5万ドルを預かっている。
アルコール依存症の医師のブーン(トーマス・ミッチェル)と娼婦のダラス(クレア・トレヴァー)は婦人連盟から目の敵にされて町を追い出される。

ドライフォークとアパッチ・ウェルズ経由でローズバーグへ向かう駅馬車には、ルーシー、ブーン、ダラスに加えてお酒のバイヤーのピーコック(ドナルド・ミーク)が乗り込む。
ギャンブラーのハットフィールド(ジョン・キャラダイン)はルーシーの用心棒を名乗り出て駅馬車に同乗する。
保安官のカーリー(ジョージ・バンクロフト)はリンゴ・キッドが脱獄したという知らせを聞いて駅馬車に乗る。
ゲートウッドは、先ほど預かった5万ドルをカバンに詰め込み、駅馬車に乗る。

かくて御者のバック(アンディ・ディバイン)とカーリー(ジョージ・バンクロフト)が御者台に乗り、
6人の乗客が乗る。
次の町までは20人ほどの騎兵隊が護衛してくれる。

ローズバーグへ向かう途中にキッド(ジョン・ウェイン)が駅馬車の前に現れるで乗せてくれと頼み9人が揃いました。

これから様々なトラブルが連発しますがそれは観てのお楽しみ。
古いモノクロで映画ですが美しいアリゾナ砂漠を描いた光と影だけでうっとりする美しさです。

【Trivia & Topics】
*B級映画の若造が主役だって?
B級西部劇の大根役者というレッテルが貼られていたジョン・ウェインの主演抜擢に周囲は驚きました。
他の出演者の手前フォード監督は必要以上に新参者のジョン・ウエインを徹底的に厳しく当たりました。
ちなみにジョン・ウェインに支払われたギャラはクレア・トレヴァーの約1/4でした。

*世界を驚かせた傑作。
オーソン・ウェルズは『市民ケーン』を撮る前に40回も繰り返して鑑賞し小津安二郎は「この作品を見逃した奴は馬鹿だ」と言っています。

*裏の主役はスタントマン。
全速力で疾走する馬の群れの中で落馬して馬に引きづられるインディアン。疾走中の馬と馬を飛び移るジョン・ウェインなど
CGや特撮などなかった時代にこの映像が生まれることができたのは命がけのスタントマンがいたからです。
『マッドマックス 怒りのデスロード』を製作したジョージ・ミラー監督には『駅馬車』への敬意をひしひし感じました。

*ヨドチョーさん。
淀川長治さんがユナイテッド・アーティスツ日本支社の宣伝部勤務になって最初に担当した作品で、当初『地獄馬車』と決められていた邦題を『駅馬車』に変更したのも淀川さんです。
淀川さんは作品への情熱がありすぎて宣伝活動をやりすぎた為に会社をクビになりました。
しかし作品が大ヒットしたので淀川さんのクビは撤回され淀川さんの活動ぶりがアメリカに報告されて製作者ウェンジャーさんからサイン入りの銀時計を贈られました。

*この映画を観ないで映画を語らないように。
オーソン・ウェルズはデビュー作『市民ケーン』を製作する前にこの作品を40回鑑賞して研究しました。
小林信彦さんは「荒野の決闘」は芸術作品だが「駅馬車」は徹底したエンターティメントでの最高の作品であると述べました。
小津安二郎監督は、映画好きは勿論、映画が嫌いな人も、映画に愛想をつかした人もこれだけは見なければいけないと述べています。天才マンガ家赤塚不二夫は幼少期にこの映画を見観てマンガ家を目指しました。

【5 star rating】
☆☆☆☆☆
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