ひでやん

少年と自転車のひでやんのレビュー・感想・評価

少年と自転車(2011年製作の映画)
3.9
断ち切られる心と結ばれる心。

ばーいしこ♪ばーいしこ♪と頭に流れる序盤、タイトルとなる「自転車」は単なる移動手段に思えて、あまり意味を見いだせなかったが、後半になってその重要性を感じた。

音信不通の父親と養護施設の少年シリル。親子を繋ぐ自転車を父親が「売る」事で縁が断ち切られる。そして自転車は、週末だけの里親となるサマンサと少年を繋げ、不良少年も繋げる。鍵、つけろよ。てか、またお前か!と思わずツッコんだが、とにかく自転車は善も悪も繋げる。終盤、2人で自転車を漕ぎ、互いの自転車を交換するシーンは心温まる。ギアが自分より上のサマンサのやつに乗りたいというシリル。大人のギアと子供のギア、そのチェンジアップがシリルの成長を表しているように思えた。

逃げ込んだ診療所でシリルが必死にしがみついた女性は里親となり、必死に捜した父親には捨てられる。優しさと拒絶、その対比があまりにも切ない。サマンサが恋人から「どっちをとる?」と言われ、「この子」と答えた時は目頭が熱くなった。もう〜サマンサ様々さ。

シリルの「盗んだ」という言葉に対し、自分の身を案じるだけの父親がショックだった。「盗んだ大金より貯金箱の小銭の方が嬉しいぞ」と言ってほしかった。「ありがとう」や「ごめん」をシリルに教えるサマンサの方が親である。木の上に立って見る、よく出来た漢字だ。

愛する父に傷つけられ、愛してくれるサマンサを傷つけるシリル。犯罪に導く悪の手と、必死に止める救いの手、嫌な予感ばかりが頭の中を駆け巡った。やる側とやられる側、どちらも最悪の結末にならなくて良かった。善悪を学んだという事で良かった。
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