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鑓の権三の教授のレビュー・感想・評価

鑓の権三(1986年製作の映画)
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相変わらずの宮川一夫の撮影の美しさ。
画面の決まりっぷりだけで堪能はできる。

ただ、脚本がのっぺりとしている。
近松門左衛門に詳しいわけではないが、映画にする題材としてはもっとドラマが濃密なものなんじゃないかという気がするのだが。
構成的には、基本、淡々とした会話劇のようにして進む。
ただ、その割に書き割りのような会話で、どことなく芸達者な俳優たちほど、なんとも心がない。

その中で唯一、田中美佐子の演技の下手さが、非常に浮きだって見えるので、これまた、うーん、と頭を抱えてしまう。
なんとなくアンニュイな色っぽさ、みたいなイメージは幻想だったのか。
というぐらい本作の田中美佐子はただのバカに見える。

しかし。困った。
この作品、小林正樹のような侍の不条理や武士道の欺瞞みたいなことを描いている風でもある。
ストーリーの軸は概ねそうだ。
刀や鑓を使った力の論理ではなく、茶や位の高い女を寝取ることで這い上がる武士の出世闘争。
しかし結局はその根拠のない慣習によって滅ぼされていく。
不条理と因縁と、面子を優先するために…と、ざっくり全体はそんな感じ。
だけど、実際はのっぺりとして、ぼんやりとして、すごく眠くなります。
これを書くだけで何回寝落ちしたか。
ドッと疲れてしまった。

地味な映画、という意味ではなく。
本当に平坦な画面なので、そこに機微のドラマがないのである。

具体的にわかりやすいのは火野正平と田中美佐子の兄妹。
どこか兄の一方的な近親相姦的なニュアンスもあるが大味。
火野正平は出世欲の塊で、主君の妻を寝取ろうと画策するも相手にされないピエロ。
流石の火野正平も郷ひろみには勝てない、という構図。

田中美佐子は、淡白な顔をして郷ひろみには執着はするが、これも本筋に絡んだり絡まなかったり。

岩下志麻も好演は好演なんだが、間がない。割と説明的なセリフの応酬で台無しの感はある。

そして主役の郷ひろみ。
こいつが何を考えているのかわからない。
思考というか感情というか、その軸が見当たらない。
だが、ミステリアスというよりは。
その場の感情やら、状況やらのシチュエーションにのめり込む、イケメンにありがちな陶酔型のバカに見えて仕方ない。

女とやることはやる。
しかし気持ちはないわ、自分のやりたいことにしか興味がないわ、俗物的に出世欲はあるわ。
追い込まれたら追い込まれたで「武士として…」みたいな破滅に酔うわ。

とにかく劇的なものはあまり起こらないのでキャラクターに思い入れたいのだが、それも叶わずどう観たら良いかわからない作品だった。
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