サマセット7

チャップリンの黄金狂時代のサマセット7のレビュー・感想・評価

チャップリンの黄金狂時代(1925年製作の映画)
3.9
監督、脚本、主演は「街の灯」「モダン・タイムス」のチャールズ・チャップリン。

[あらすじ]
西部開拓時代のアメリカ・アラスカの雪深き山岳地帯にて、多数の金鉱探しの探検家たちが、一攫千金を狙って山奥に分け入っていた。
そんな一人、孤独な金鉱探し(チャップリン)は、雪中で山小屋を見つけるが、そこには先客の悪党ブラック・ラーセン(トム・マレイ)がおり、さらに金鉱探しビッグ・ジム(マック・スウェイン)が転がり込んだ。
ちょうどその時嵐が山小屋を飲み込み…。

[情報]
史上最も知られている喜劇役者にして喜劇映画監督、チャールズ・チャップリンの、3番目の長編監督作。主演監督兼務の長編作品としては2作目。

コメディの相方には、短編映画で何度も共演を務めたマック・スウェイン。
ヒロイン役には、当初リリタ・マクマレイ(リタ・グレイに改名)が想定されていたが、「色々」あってチャップリンと結婚の上降板(!)。
最終的には「救ひを求むる人々」一作の主演経験に止まる女優ジョージア・ヘイルが抜擢された。

今作は西部開拓時代のゴールドラッシュをモチーフにしたスラップ・スティック・コメディである。
大規模なロケ撮影、特撮、エクストラの動員など、チャップリンの長編の中でも、かなり力の入った作品として知られる。

今作は数々の映画史的名シーンで知られており、特に空腹のあまり靴を煮て食べてしまうシーンと、ロールパンとフォークを足に見立ててダンスを踊らせるシーンは、有名である。

今作は、現在でも高く評価されており、特に評論家からは、信仰的な崇拝を集めている。
私が見たところ、一般層からの人気は、チャップリン長編作品の中では真ん中くらい、という印象だろうか。

[見どころ]
シチュエーションを活かした、ドタバタ喜劇!
チャップリンは演技が上手い!!!
名シーンの数々!
靴!ニワトリ!!パンのダンス!!!
そして傾く山小屋!!!!

[感想]
安定のチャップリン映画。
70分の短さが良い。

今作は大きく3幕構成になっており、雪山のドタバタコメディ、山の麓の酒場の女性ジョージアとの一方通行ロマンス、再び雪の山小屋でのドタバタ活劇、に分かれる。

それぞれ名シーンと見せ場があり、チャップリンの絶妙の演技が楽しい。
喜劇としての工夫は、ザ・キッドから一段レベルアップしている。
ずっと片足の靴がないのが良い。

また、喜劇の中に人生のままならなさ、哀しさなどの要素を入れ込むのがチャップリン流で、今作でもその流儀は貫かれている。
特に序盤の雪中の飢餓の悲惨と、中盤の片想いの切なさは目を覆わんばかり。

有名な靴を食べるシーンは、海藻と飴で作られた靴を実食していたという、迫真のシーン。
可笑しさと悲惨が見事に同居している。

また、酒場の女に恋をしたチャップリンの一人相撲を描く中盤、別の男に気を持たせるために、いいように使われてしまい、それでも恋心の高まりを抑えられないチャップリンの様子は、普遍的な男の純真を描いて見事だ。

現在配信されているバージョンは、チャップリン自身の手による劇伴とナレーションがついており、サイレント映画らしさは感じられない。

喜劇性で上をいっている分、ザ・キッドや街の灯に比べると、構造上、ラストの感動は然程でもない。

今作はどちらかと言うと、モチーフの社会批評性が重視された作品かと思う。
しかし、物語に思ったよりもエグみはなく、スマートに爽やかに終幕する。
この辺りは好みが分かれるところかも知れない。
大衆向け喜劇なので大衆が喜ぶオチをつけた、というところか。

[テーマ考]
今作は、金鉱探しという命懸けのギャンブルに自らの身命をベットした男たちと、そんな男たちと恋愛のゲームを繰り広げる女たちをモチーフにした作品である。
当然、テーマとしては、泡沫のような人生に一生懸命になる人々の滑稽さと悲哀が浮かび上がる…はずなのだが、ラストまで観てもそういったシニカルな批評性は感じられない。

先入観を捨てて考えるに、今作は、割と楽天的なメッセージを伝えた作品なのかもしれない。
つまるところ、飢餓の悲惨も、片思いの辛さも、命の危険も、笑い飛ばすしかないではないか!?
ダメで元々、当たればラッキー、それが人生。
どうせダメなら笑わにゃ損!!

このテーマに沿って見ると、さくっと終わるラストまで、筋が通るように思えるのである。

ひょっとするとこのテーマは、喜劇王チャップリンの人生そのものとも重なるのかも知れない。

[まとめ]
これぞ次代に残したい、チャップリンの代表作の一つにして、名シーンで彩られた、喜劇成分多めの名作。

今作と言えばビッグ・ジムを演じるマック・スウェインのギョロ目も忘れ難い。
ニワトリの幻覚を見てチャップリンを追い回す狂気の姿は、シャイニングのニコルソンも真っ青の迫力である。