みかんぼうや

おくりびとのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

おくりびと(2008年製作の映画)
4.1
【なぜか避けてきた超有名作を食らうVol.10】
納棺師の話ということで、かなり重苦しくシリアスな映画だと思っていたので、これほどクスッと笑えるエンタメ要素多めの映画だとは全く思っていませんでした。ただ、“死”を起点とした家族ドラマとしても温かく感動的で涙する場面も多い、とてもバランス感のある良質なヒューマンドラマでした。

アカデミー賞をはじめ世界でも称賛された有名作なのにずっと観てこなかった理由は、テーマの重さから勝手にかなり覚悟して観る作品だと思っていたからですが、全く肩肘張って観る作品ではなかったです。やはり本作のように普段接することの極めて少ない馴染みのない仕事を題材にした作品は、これくらいの温度感が一番受け入れやすいですからね。実際、本作を通じて「納棺師」という仕事が一気に世に知られるようにもなったと思うし。

内容は、結構ベタベタなお仕事ムービーで、銭湯や父親のくだりなどから、中盤以降の展開も読めてしまう分かやす過ぎる感動展開。そこにベタな感動演出と感動を助長する音楽がかかる。いつもの自分だったら、その“泣かせ演出”を逆にノイズに感じてしまいそうな気がするのに、ここまで刺さりまくって心揺さぶられたのは、昨年の秋に祖母を、そして比較的直近に妻の祖母を亡くし、その時の納棺師さんを思い出したことと、主人公と同じく私も5歳頃に父が出ていった家庭で育ち、父の顔も覚えていないくらいなので、そのあたりの境遇が似ていたことも少なからず影響しているかもしれません。

特に、昨年祖母が亡くなった時の納棺師の方は、20代中盤くらいのとても若くて可愛らしい女性の方で、祖母をとても美しくしてくれました(化粧の瞬間は立ち会えなかったのですが、お礼を伝えることはできました)。もしかしたら、あの納棺師の方も、本作でこのお仕事の素晴らしさと大切さを感じて、納棺師になられたのかな?なんて思ったり。

そういった身近な経験もあり、納棺師とは敬意を持って迎えられる仕事だと認識していたので、作品の中でかなり偏見を持たれている仕事として描かれていたのはちょっと意外(映画上、ドラマとして誇張したのか、実態として、“死”を扱う仕事として特に地方では忌み嫌われる部分が強いのかは分かりませんが)。

俳優陣では、なんと言っても山崎努の存在感が抜群でしたが(履歴書を見もせずに投げ捨てるシーンで爆笑して、納棺時の真剣なまなざしにグッとくる)、モックンの爽やかながら美しい所作も素晴らしかったです(演技は今よりだいぶ若さを感じさせます)。

そんな所作を観ながら、納棺とは一つの慣習でありながら、そこにはたしかにその国の守るべき大切な文化が内包されていると感じました。納棺師という仕事の奥深さ、家族の大切さに加え、日本人の考え方を世界に改めて示した意味でもとても価値ある素晴らしい作品だったと思います。
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