けーはち

おくりびとのけーはちのレビュー・感想・評価

おくりびと(2008年製作の映画)
3.2
納棺前に遺体を綺麗にする納棺師を題材にした非常に物珍しいお仕事ドラマ。地方の寂れた日本家屋の町並み、畳の上での日本式仏葬の所作等のエキゾチシズムが欧米でウケたようで、本作はアカデミー賞外国語映画賞を獲っているのだけど、当の日本人から見てそんな賞に値するような映画かなぁと疑問。主人公の田舎が山形、前職がチェリストなのは、美景でチェロを弾き鳴らすシーンを気持ち良く見せるためであざといし、死=ケガレと感じて差別する妻の葛藤や生き別れた親との因縁等は物語の推進力としての狙いが露骨。大衆が共感・同情しやすい夫婦二人の清潔感(本木雅弘は元より、一回デキ婚した広末涼子すらもまだキャンドル・ジュンとか名乗る怪しげな人物と再婚するまでは清純派のイメージだったのだ)で押し通す、良くも悪くも予定調和に無理なく落ち着くサクサクしたメロドラマの鑑と言える。「穢らわしい!」と言った直球差別発言も知り合いの死に接しコロッと反省すりゃ許された空気、そんなあっさり風味のドラマ性。

チェロを中心に据えたせいで母親の遺した喫茶店が妙に気取った感じになるし(喫茶店ならジャズとかポップなラウンジ・ミュージックをかけなさいよ)、そもそも「シューマンのチェロ協奏曲」のLPジャケットが写っている場面で流れてくる音楽は久石譲のテーマ曲だったり、田園風景だって桜が咲いているうちに田んぼに水が張られていたりでおかしなことになっていたりツッコミ所は色々あるが、最後のヒューマニズムで涙腺搾りを目的としたドラマへ収束するのが全て。他の雑味になる情報は精査しない方が良いのだ。個人的には、折角の納棺師のお仕事ドラマ的な側面がもうちょいあると良かったなぁ。