囚人13号

素晴らしき放浪者の囚人13号のレビュー・感想・評価

素晴らしき放浪者(1932年製作の映画)
5.0
最高の映画作家が最高の俳優に対する敬意として献上した特権的作品、天才たちの極個人的なフィルムが溢れんばかりの魅力を湛えて我々に唾を吐きかける。

煌めく河とは対象的に凄まじく不潔なミシェル・シモンの存在が雄弁に物語っているように、他人を無意味に肯定する薄っぺらな欺瞞こそルノワールの対極であって、綺麗事ではなくひたすら生き抜くことにこそ人間の本質があるのだと訴えつつ、やはり何らかの形で社会と妥協せねば生きられない我々の実人生を鋭く抉ってみせる。

誰の根底にも潜む妖精がスクリーンへ投影されるとその奔放さに息を飲み、擁護し難いほど理性からかけ離れた男(浮浪者)の運動が悉く知性(本屋)を打ちのめし出鱈目な勝利を収めてしまう様相こそ真の自由の獲得である。
しかし夢が終わってまた理性に帰るとき、実社会に生きるうえで弊害となってしまう自分の、我々の素晴らしき放浪者は一人河の流れに乗って太古の昔へ、記憶の彼方へと帰属していく。
囚人13号

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