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素晴らしき放浪者のzhenli13のレビュー・感想・評価

素晴らしき放浪者(1932年製作の映画)
4.4
あらためて自分はクズだなと思い知らされることがあった。どうしてこんな歳になっても私は人の道理や人の気持ちがわからないんだろう。どうして働いて金もらうことに対していつまで経っても責任が持てないんだろう。どうして自分の頭と身体にも責任が持てないんだろう。というかそういう努力ができないのなら、私はクズであることを認め受け容れなくてはいけないのだ。でもそれができない。クズであることを堂々と受け容れ、クズとして生きられる環境に身を置き、自分のやりたいことだけをするミシェル・シモン演ずるブーデュ。そうなんだ。クズな自分を肯定できないから、暗くて人に嫌われる。そもそも人に嫌われようが嫌われまいがブーデュには関係ない。自殺から救ってほしくもなかった。人が勝手に施してくれるだけで彼自身は望んでいない。だからへり下る必要も恩義を感じる必要もない。「貧しい者持たざる者を助けてやる」という偽善のもとにある支配-被支配構造を揶揄する。彼は何も持たず情も教養も礼儀もなく、でも寝取った女を虜にする。生も性も謳歌し享受しているかのように見えるが、人生は虚無。望遠でドキュメンタリーのように撮られるブーデュ。彼が飛び込んだセーヌ川のほとりにも救出され運ばれた書店の前にも人は鈴なりで、ボートが転覆し水浸しになりブーデュを見失って妻と愛人と3人で身を寄せる書店の店主レスタンゴワにしても、現代の日本に住む私からみたら、ここにいる人たちみんな自由で本能的に見える。その川の波紋は驚くほど美しく、人々を照り返す光は輝き、部屋から望遠鏡で外を覗く女中アンヌ・マリの佇まいも絵画である。
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