あーや

彼奴(きゃつ)を逃すなのあーやのネタバレレビュー・内容・結末

彼奴(きゃつ)を逃すな(1956年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

初めて鈴木英夫監督の作品を見ました。音楽を担当しているのが芥川也寸志ということだけ前情報で知り、後は誰が出るのかも内容も全く知らないまま見始めたのですがスリリングな良作でした!
ストーリーは自分の店の前で殺人事件があった夜、偶然一瞬怪しい男の顔を見たラジオ修理屋の店主が事件と関わりたくない一心で警察にも黙認を決め込むところから始まります。実は店主には妊娠中の妻がいて事件の翌朝、匿名の手紙で犯人らしき人物から脅迫の手紙が届いていたのですね。怖くてすぐに手紙を燃やしてしまいましたが、その脅しから逃れられずにただひたすらビビりまくる日々が始まります。

汽車が走っていくスピードに合わせてタイトルとオープニングクレジットが始まるのですが、これが結構おしゃれ。作品の中でも光と影を見事に使い分けて観客を不安にさせ、そのときの静寂や音をこれまた器用に使い分けて私達をより緊張させる。音楽というより音そのものですね。
近づいてくる汽車の音、ちんどん屋の楽器音、ドラム缶のゴロゴロと転がる音など普段だったら気にとめないような音が「もしかしてこの音は・・!」と主演の木村功共々私たちの恐怖心も煽るのです。
特に好きだったシーンは、黙認をするよう懇願する妻と困惑する夫のやりとりのシーンです。白黒の画の光と影を利用して、二人の表情を交互に撮影する。光の強弱を微妙に変えることでわざと木村功の横顔を暗い影でいっぱいにして不安そうな表情を汲み取らせ、彼の「わかったよ」という納得した返事の後は津島恵子にもう少し光を当てて彼女の安堵の表情をはっきりと見せる。うーんっ!細かい!!色がないことを光と影を駆使することで利点に変えた演出。お見事です。
彼の演出は、さすが和製ヒッチコックと言われているだけあります。鈴木英夫監督はきっととても粋な方なのですね。
そしてキャストが豪華!木村功と津島恵子が夫婦役(‼) 、警察官役に志村喬、犯人役に宮口精二と次から次へと出てくる七人の侍の役者たち。
序盤から仕事のことでうじうじしている木村功が頼りなくてとても良い。頼りない割にラストでは、あの手この手で妻や街の人間に犯人と対峙していることを伝えようと奮闘していました。ただその頑張りも虚しく空振り続きなのですが・・・。志村喬演じる張り込みの警察も意外と大したことないのね。
銃撃戦のあといきなり朝になって新聞の見出しを写し、元の殺人現場の看板が塗り替えられるところですっきりと終わる。
まんまとドキドキさせられましたよーーー。面白かった!!そしてやっぱり芥川也寸志の音楽は奇妙!彼が日本音楽界の歴史を変えた天才なのは紛れもない事実ですが、変人気質もちゃっかり父親から受け継いでいると思います。
シネヌーボにて8月いっぱいまで日替わりで上映中の鈴木英夫監督特集。彼の作品はソフト化されていない作品が多いため、上映期間中にできる限り観たい。
ただ、私が東南アジアに沈没しに行く間に数本名作らしい作品を見逃してしまうのが心から残念でなりません!今回を逃したら次はいつ観れるのかしら。。
あーや

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