映画漬廃人伊波興一

日陽はしづかに発酵し…の映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

日陽はしづかに発酵し…(1988年製作の映画)
4.3
未見の新作『独裁者たちのとき』にますます胸弾んできます。

アレクサンドル・ソクーロフ
『日陽はしづかに発酵し…』

私個人はその著作の一部を途中で挫折したままだから言及する資格など全くありませんが世界的に有名なSF作家ストルガツキー兄弟の『世界消滅十億年前』が原作です。

映画の舞台は原作と違っているようで中央アジアのトルクメニスタンが舞台になっています。
送り主不明の巨大な伊勢海老も、呼んだ筈もない姉の登場も、罪状不明の脱獄兵も、妙に落ち着いた正体不明の男の子も、全ては、主人公のロシア人医師がソ連崩壊直前に乾いた砂漠地帯で見た茫然自失の(憂鬱の自意識)の現れとして画面に描出されますが、映画全体は極めて寓話的で、ファンタジックなほどオッフェンバックの音楽が見事に映像の琴線に融合されて掴みにくい筋の脈絡を忘れさせる甘美さに満ちてます。

この『日陽はしづかに発酵し…』という映画を傑作とか面白いとか問う以前に、記憶の間隙(かんげき)に、謎と神話を探る趣向で何十年も映画を撮り続けるソクーロフの創意には舌を巻くしかありません。
未見の新作『独裁者たちのとき』にますます胸弾んできます。