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死と処女(おとめ)のtakのレビュー・感想・評価

死と処女(おとめ)(1995年製作の映画)
3.3
限られた狭い舞台で進行するお話を撮ると、ロマン・ポランスキー監督は俄然本領を発揮する。ラスト以外カメラが外に出ない「おとなのけんか」にしても、劇場内が舞台となる「毛皮のヴィーナス」にしても、ユダヤ人ゲットーと廃墟が舞台の「戦場のピアニスト」にしても、「ローズマリーの赤ちゃん」「反撥」にしても、世間から評価されてる作品をはそうした傾向があるように思う。広大な景色をイメージする監督作って「テス」くらいじゃなかろうか。舞台劇の映画化には向いてるのだろう。この「死と処女(おとめ)」も元々は舞台劇。

嵐で電気も電話も使えない一軒家。シガニー・ウィーバー演ずる妻は精神的に不安定な様子。そこへ夫が帰宅する。弁護士である夫は発足して間もない民主化政権の元で、過去の独裁政権下での人権侵害を調査する委員会に抜擢された。妻は新政府を信用できずにいて、夫が政府側の仕事に就くことを許せない。夜更けに夫が懇意にしている医師がやってくる。隣室で二人の話し声を聞く妻。彼女に忌まわしい過去の記憶が蘇る。かつて反政府活動をしていた彼女は捕らえられ、目隠しをされて拷問された。夫が話している声の主は、シューベルトの「死と処女」を流しながら自分を辱めたその男の声…。

登場人物は3人だけ。台詞中心で進行するまさに舞台劇調の作品である。映画後半は、ギリギリの精神状態の妻がどんな行動に出るのか予測できず、ハラハラさせられる。「赤い航路」でも夫婦間に潜む謎が描かれたが、本作でも然り。深刻なテーマにも引き込まれるし、役者の熱演も見応えがある。でも狭い舞台を撮る映像の工夫があまり感じられず、力作だが他の代表作ほど魅力的には思えなかった。
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