プペ

ヒア アフターのプペのレビュー・感想・評価

ヒア アフター(2010年製作の映画)
2.9
思えば、イーストウッドが監督した西部劇は、常に「地獄」を描出するものだった。

『荒野のストレンジャー』で、主人公の幽霊ガンマンが街を真っ赤に塗り″HELL(地獄)″と名づけて以来、彼自身が演じるガンマンは、″一度死んだ者″として復讐すべき相手の前に現れ、この世界は地獄に他ならないことを体現してきたのだった。
そして1990年代半ば以降のイーストウッド作品は、そんな「地獄」を、現代劇のなかにも描き出す試みだったのではあるまいか。
そこでは、そういった「地獄」を主人公たちが受け入れることでしか″救済″などありえない。そんな苛酷な、あまりにも苛酷な叙事詩的作品こそが「イーストウッド映画」なのだった。

だが、この本作において、多分はじめてイーストウッドは「天国」について語ろうとした。
それは実際に″天国の光景″が描かれたから、というだけじゃない。

確かにマット・デイモン演じる霊媒の才能をもった男も、フランス人の女性ジャーナリストも「来世」を見たし、それを私たち観客も″目撃″した。
しかしイーストウッドは、ここでそれを決して「天国」だと言ってはいない(あのモノクローム風に描かれた「来世」は、むしろ「冥府」のようではないか)。


この映画に登場する、3人の一度″死んだ″者たち。
その体験ゆえに彼らは、それぞれ「死の意味」を求める苛酷な日々を送ることになってしまう。
この世にありながら「来世」を追い求め、あるいは逃れようとする彼らにとって、もはやこの世界こそが「地獄」に他ならない。

だが、それぞれ長い″「地獄」巡り″を経て、3人は運命的に巡り会う。
その後で、映画は″2つの抱擁″を描くだろう。ひとつはとある施設の殺風景な1室で、もうひとつは何でもない雑踏のなかでの抱擁。
しかも雑踏でのそれは、男がはじめて「来世」とは別に見た「この世」のヴィジョンなのである。


彼とフランス人のヒロインが(もうひとりの主人公である少年の、天使的な計らいによって)出会い交わす、抱擁とキス。

その″幻視”の後、ふたりは雑踏のカフェに席をとり、親しげに語らう。
このラストシーンこそ、イーストウッドがはじめて描いた「天国」だ。
その何という穏やかさと、美しさ……。


星は5つ中、2.9。
絶賛レビューと見せかけておきながらこの数字。
そう、残念なことにどうやら私はイーストウッド監督作品とはあまり馬が合わないらしい。
それでもラストまで鑑賞し、エンドロールまで見届けた私をイーストウッド監督は感謝すべきではないか?
プペ

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