カネコ

ツィゴイネルワイゼンのカネコのレビュー・感想・評価

ツィゴイネルワイゼン(1980年製作の映画)
5.0
mark100本目なのでオールタイムベストを邦画から🎥

バイオリンの名手サラサーテが自ら作曲、演奏した「ツィゴイネルワイゼン」のレコードにサラサーテ本人の声が入っている。それが何と言っているのか聞き取れない。そんな内田百閒の短編小説『サラサーテの盤』等を原案に、四人の男女が現実と幻想、生と死の境目が曖昧となる妖艶な世界へと迷い込んでいく。

『陽炎座』『夢二』と並んで大正浪漫三部作と呼ばれているけど私はダントツでツィゴイネルワイゼンが好き。

ストーリーを追うというよりも鈴木清順監督の創り出した世界観を楽しむ作品。
ライド形式のお化け屋敷のように拍子木の音と共に釈迦堂切通しを潜ったらあの世とこの世が曖昧な世界👹

“危のうございます”
“もう後戻りは出来ませんわねえ”

士官学校の教師である青地豊二郎とその親友の中砂。対照的な性格のニ人とその妻周子と園。さらに園に瓜二つの芸者小稲。
この五人が形作る複雑な三角関係。

青地と関係を持つのは蒟蒻で感情を表現する女・園。中砂と関係を持つ眼球舐めの周子。妻の園を一人にして放浪しながら小稲と関係を持ち続ける骨に魅了された男・中砂。
そんな絡まりまくってる関係なのに男二人は仲良く蕎麦を啜る。

“で、どうだったの?”

途中で挟まれる盲目の旅芸人三人組の関係性が変化していくのも象徴的。
女を寝取った弟子と砂浜で対決する盲目の男二人は首まで砂に埋まっていてまるで生首のよう。
桜舞い散る山の中で麻酔薬中毒で首まで土に埋まって死んだ中砂とリンクする。

園と中砂の子供の名前が豊子。青地の名前から一文字もらっている。
豊子は誰の子なのか?

園も周子の妹も戸棚にしまってある食べ物を食べて欲しいと青地に言い残して死んだ。
戸棚にしまってあるのは青地への秘めた想い。

食べるシーンが印象的で登場人物がよく食事している。
食べ方にそれぞれの性質が表れていて面白い。そして本当に美味しそう。

鰻・精進料理・天ぷら蕎麦・ちぎり蒟蒻入りすき焼き・水蜜桃・麦酒に冷酒。
そして戸棚の中のちぎり蒟蒻と鱈の子。

そういえば冒頭でとうもろこしを齧ってる中砂はまるで骨を齧ってるみたいだった🌽

中砂と関係を持った周子が体質が変わったと言って嫌いだった水蜜桃をしゃぶるように食べるシーンは妖気すら感じた。

たぶん正しい解釈なんて無くてどんな切り取り方で観ても楽しめる所が魅力で何度観ても新しい発見があって楽しい。

青地は精神を病んでいるのか。死んでいるのは本当は誰なのか。

“おじさんこそ生きているって勘違いしているんだわ。
さあ、約束だからお骨を頂戴。
参りましょう。”



数年前に今作のロケ地巡りを鎌倉でして来た。
釈迦堂切通しの惨状を見てミルクホールでプリンとつげ義春傑作選を堪能🍮
鶴岡八幡宮の太鼓橋で締め。

釈迦堂切通しは綺麗にして修復されて2028年に再通行出来るようになるらしいので再開したら今度は潜りに行きたい。
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