ワルキューリ

震える舌のワルキューリのレビュー・感想・評価

震える舌(1980年製作の映画)
4.0
口から血を吹き、声は出せず、一度かかればかなりの確率で死ぬ。
かつて悪魔の所業とされた難病は治療法の見つかったものがあるとはいえ、患者が受ける痛みや恐怖は変わらない。

破傷風菌は普段は地面や水の中に潜み、ふとした偶然で人間に牙をむく。それはあたかも地球を汚す人類に対する戒めのようだけど、何の罪もない子供がその対象になるのがキッツい…
開始わずか五分で繰り出される「震える舌」の恐ろしさときたら、そんじょそこらのホラーが裸足で逃げ出しますね…

主演の渡瀬恒彦は典型的な「日本の父親」。育児は母親(十朱幸代)に任せる一方、不出来であればその責任からは逃れてしまう。だけども娘が破傷風に侵され、自分もかかったのではないか?という疑いから娘を化物のように見てしまうノイローゼに陥りながら、ギリギリの精神力で持ちこたえるさまを見事に演じている。
自分の指の傷を洗面所で洗い流すシーンの痛みが特に胸を打った。

美しいチェロの響きがアンバランスながらいつ崩れるともしれない慎ましい家庭を思わせ、痛ましさを何倍にも増幅させるブースター効果を生む。