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愛するのakrutmのレビュー・感想・評価

愛する(1997年製作の映画)
2.7
ハンセン病と診断されて長野の療養所に隔離される女性を描いた、熊井啓監督のドラマ映画。遠藤周作の小説『わたしが・棄てた・女』の二度目の映画化作品で、倒産後の新「日活」の第一作として配給された。

最初の映画化作品である浦山桐郎監督の『私が棄てた女』に比べて、原作に忠実に映画化している点は良いのだが、時代を現代(本作が公開された1997年頃)に設定したことで、ストーリーに無理が生じてしまったのが大きな失敗であろう。例えば、主人公の森田ミツがハンセン病と診断され、本人に病名を告げないままに療養所に隔離されるというストーリーは、1997年ごろでは明らかに非現実的である。ハンセン病はすでに治療法が確立されていて、隔離されるような病気ではないし、作中でも語られるように、1996年にらい予防法は廃止されている。もうこの段階で作品が陳腐にしか見えず、その後の主人公の行動も不自然で、共感できないままになってしまう。

棄てる側の男性・吉岡の身勝手さが上手く表現できていない(もしくは、脚本の中に落とし込めていない)のも、本作の欠点と言える。「棄てる」を消した題名からは吉岡を脇役に配するという監督の意図が窺えるが、それにしても吉岡の立ち位置が中途半端である。一応、ミツを弄んで棄てるというプロットを残しながらも、渡部篤郎の演技が下手なこともあって、彼の本心がどこにあるのかが伝わってこないし、結果として、ラストシーンが印象に残らないのである。

ミツを演じた酒井美紀は『白線流し』の主演で注目を集めた頃であり、一生懸命さが伝わる演技は好感が持てるが、ミツの機微を十分に表現できるまでには至っていない。

結局、当時もまだ一部で残っていたハンセン病や療養所に収容されている人々への偏見や差別を訴えるというメッセージ性を強く押し出したために、時代設定が古い原作を翻案することができずに、中途半端な出来に終わってしまった作品と言える。
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