マヒロ

まだらキンセンカにあらわれるガンマ線の影響のマヒロのレビュー・感想・評価

4.0
未亡人のベアトリス(ジョアン・ウッドワード)は、活発な性格でチアリーディングにお熱だがてんかんもちであることに悩む長女・ルース(ロバータ・ウォラック)と、学校の課題で「まだらキンセンカにあらわれるガンマ線の影響」を研究する物静かだが賢い次女・マチルダ(ネル・ポッツ)と、ボロ家に三人で暮らしていた。新聞記事を読んで管を巻いたりする無意味で閉塞的な生活を送っていたベアトリスは、そんな日常を変えたいという思いからか、急な思いつきで喫茶店を開こうと動き出すが、当然のように上手く行かず……というお話。

俳優のポール・ニューマン監督作品。ベアトリス役のジョアン・ウッドワードは妻で次女役のネル・ポッツは娘と、自らの家族を起用して作られた作品だが、内容的にはなかなかハードな家族の在り方を描いていて、これを実の家族で製作するというところに何やら並々ならぬ覚悟を感じてしまう。
(ちなみに長女役のロバータ・ウォラックはあのイーライ・ウォラックの娘らしい)

夫に先立たれたベアトリスは、年頃の娘を2人抱えながらシングルマザーとして何とか暮らしていたが、ハッキリと今の暮らしや世間に対しての憎悪を口にしており、それを娘の前でも包み隠そうとはしない。決して家族である娘達も一緒くたに憎んでいるというわけではなく、愛情を感じさせるような行動も取るが、それを表立って口にするような余裕もないような状況。
長女のルースはそんな母に対して苛立ちを覚えることも少なくなく、母が介護の仕事のために家に連れてきた老女に対して明確に嫌悪感を示したりするが、一方でそういった他人への悪意を露見させてしまうという事自体が、自分が嫌がっている母と同じなのではないかと思い悩む。

一方で、なかなか感情を表に出さないマチルダは、理解のない母に研究について小馬鹿にされたりしながらも研究に没頭するが、彼女が大一番の発表会後にひとり思うモノローグがこの映画の全てを表しているように思える。
母親という存在の強烈な影響力により育っていく子供達はまさしくガンマ線に照らされて変異していくキンセンカのようで、その影響をもろに浴びながら成長していくルースと、全てに絶望する母を見つつも、稀に現れるキンセンカの突然変異体のごとく「世界はそんなに悪いもんじゃない」と信じ続ける姿には、決して押し付けがましく無い静かな感動があった。たまたまそうなった、という訳でもなく、科学という学問への一種の信仰が彼女を救ったとみられるのも良い。

中年の危機とも言える、人間の絶望を生々しく描いた作風はカサヴェテス作品っぽさがあるが、鋭利な刃物を向けてくるようなシャープさのあるあちらと比べると、どこか性善説みのある、人間の根底の温かい部分を信じているような優しさも感じられる作品だった。

(2021.253)
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