ちろる

太陽の王子 ホルスの大冒険のちろるのレビュー・感想・評価

3.7
昨年の高畑勲展で当時の企画書を見てからずっと観たかった、高畑勲さんが東映時代に監督した初長編アニメ作品。
当時後輩だった宮崎駿もキャラクターデザインなどで参加した、2人の初共同制作の作品でもある。
観終わった後、、、旦那と同時に
「いや〜複雑ーww」と顔を見合わせてしまった。
なによりもキャラクターの設定複雑すぎ。
特にホルスが想いを寄せる事になるヒロインヒルダは綾波レイもびっくりのめっちゃ闇な内面世界の中に閉じ込められてます。
いまだかつて、この時代においてもメインのヒロインキャラでこんな屈折した少女っている?
ホルスの行動の一つ一つについても基本説明が少なすぎて疑問符が増えていくから、たまに置いてきぼりに。
そもそもなんでそんなによく知らないヒルダをあそこまで信じられるのか?っていうのが一番の疑問なんですが、ただの一目惚れといってくれたほうがまだ納得する。
というわけでストーリーもキャラクターも訳わかんねー!で終われば清々しいのに、悔しいところといえばこの作者のアニメーションの躍動感の素晴らしさが点数を迷う理由。
セルが足りなかったか、時間がなかったか、静止画で乗り切るシーンがあるものの、それでも68年当時にここまでの滑らかなアニメーションを作れていたという当時のアニメーターたちの技術の高さを感じずにはいられません。
あとはアイヌの文化を研究しつくした少し独特な民族の生命の営みの描写や、お祭りのダンスシーンなどこの作品でなければ表現できない、見所もたくさんありました。

高畑勲さん好きなので敢えて書けば、高畑勲は空気読まないサイコパス監督。
これくらいの表現で、普通の観客は分かるだろうと本気で信じてる人。

思いっきり笑うとか、泣くとか、感情を言葉にする宮崎駿みたいなアニメ作品じゃなければ万人受けしないのに、高畑勲は沢山の本を読んできたし、たくさん学んできた頭の良い自分と全くレベルで世間の人がモノを考えられると思ってる。
逆に言えば世間の半数以上の鑑賞者はこういうアニメーションを裏の裏まで考えて、穿った見方する事なんて無いってことを知らない変わり者なんです。
そこを踏まえたらこういう作品を作っちゃうのは納得。
ってか出発地点からそこはおんなじなんだなと思うとクスッと笑える。
(ジブリからは、鈴木敏夫さんによってなんとかエンタメアニメ風に乗りきってた)

現代の私たちでこそ、高畑勲の作品について時代を超えて考察したりしますが、東映夏休みこどもまんがまつり!で上映するのには時期早々すぎた笑

朝ドラ「なつぞら」でも少し描かれてましたが、夏休みの子ども向けアニメ映画として描いた本作は、高畑勲の考えとして子どもだけでなく付き添いの大人や高校生なんかも楽しめるようにとのコンセプトでこの作品を作った訳ですが、結果付き添いの大人でもぽっかーんとなってしまって興行成績は振るわず。
チームの待遇面で責任が問われる事になった為、これをきっかけに高畑勲は責任感じて退社というわけだったので、これが成功しなかったこともこの後のジブリができるものがたりへとつながるのだから運命って面白い。
エンタメアニメーション作品としてではなく、日本のアニメーションの歴史を学ぶ一部としては観ておいてもいいのかなと思う作品です。
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