シズヲ

愛しのタチアナのシズヲのレビュー・感想・評価

愛しのタチアナ(1994年製作の映画)
3.7
カティ・オウティネンやマッティ・ペロンパーとかが其処にいるだけでカウリスマキ映画のムードが一気に漂ってくること、なんだか味わい深い。

フィンランド人の男二人と異邦人の女二人によるロードムービーだけど、何だか開幕からぼんやりとしている。男達は“車の試運転”という名目で宛もなく旅に出て、女達は「あそこにいるマヌケ顔の男達に港まで乗せてもらいましょう」的な流れで男達の旅に加わる。そっから先は取り留めもない道中が延々と繰り広げられ、4人とも楽しいんだか楽しくないんだがよく分からない。けれど最後は「まぁ何だかんだ彼らなりに良い旅だったんだろうな」と思わされる、そんな不思議な寂しさがある。

カウリスマキ監督作なだけに場面の撮り方は終始秀逸であり、モノクロの映像も相俟って静謐とした端正さに満ちている。淡々と進むロードムービーの描写や時折ちらつくメロドラマ性からは何処かオールドスタイルの匂いが漂いつつも、そこから極限まで贅肉を削ぎ落としたようなシュールさを感じる。寡黙にしてシンプル、純朴な作風の中に不思議な安らぎがある。コーヒー中毒&ロッカー気取りの冴えない中年男性コンビも妙に味わい深い。

なんてこともなしに終わろうとしたタチアナとの関係を追いかけた片割れは、最後にささやか幸福を手に入れる。もう一人はあの他愛のない時間に思いを馳せながら、味気のない日常へと再び回帰する。4人での旅路の“続き”を夢想しながら寂しげに過ごすコーヒー男、なんとも言えぬ余韻が漂う。あんな素っ気ない道中さえも、彼らにとってはなんやかんやで掛け替えのない思い出だったような気がしてくる。
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