こなつ

愛しのタチアナのこなつのレビュー・感想・評価

愛しのタチアナ(1994年製作の映画)
4.0
アキ・カウリスマキ作品、9作目。カウリスマキの作品の中では珍しいモノトーンのジャケ写、1995年に他界したマッティ・ペロンパーの遺作としても有名。以前から観たいと思っていた。眠れない夜は、やはりアキ・カウリスマキ。ドキドキしたり、ワクワクしたりする訳ではないけれど、何故か癒される。優しい気持ちになれる。

1960年代のフィンランドが舞台。シャイでウブな中年男性が2人で旅に出る。途中、港まで外国人女性2人を送ることになった。カウリスマキ独特のタッチでユーモラスに描かれた恋の珍道中。

仕立て屋の息子ヴァルト(マト・ヴァルトネン)は、好きなコーヒーが切れている事に腹を立て、母親を物置に閉じ込めて家を飛び出す。友人の整備工のレノイ(マッティ・ペロンパー)と唐突に旅に出ることにした。レノイは、革ジャンにリーゼント、常にウォッカのボトルを持っているアル中。専用コーヒーメーカー付きの車で、コーヒー中毒のヴァルトとロック狂でアル中のレノイの奇妙な旅が始まる。そんな2人が、休憩していたレストランで出会ったロシア人のクラウディア(キルシ・テュッシュライネン)とエストニア人のタチアナ(カティ・オウティネン)を港まで送ることになった。

あんなに喋るマッティ・ペロンパーは、他の作品では観たことがない。途中までお酒で陽気になって捲し立てていたのに、女性が乗り込んだ車では急に無口になる。シャイな上に、女性の扱いになれていない2人の中年男性がオロオロする姿が何とも微笑ましい。

事の成り行きで一緒にエストニアまで付いて行った2人だったが、こんな感じでは進展なんて、、と思っていたところ、レノイの優しさがタチアナには伝わっていたのだ。心が通じ合う描写がカウリスマキらしくて温かい。

エストニアに残るレノイ、1人フィンランドに戻るヴァルト。物置に閉じ込めていたお母さんは、埃まみれになっていたけど、怒り狂う訳でもなく、またミシンを踏む日常が何事もなかったかのように淡々と続く。女性との出会いなどなかっただろう中年男性に突如訪れたときめきの時間を、カウリスマキ節で綴る素敵なロードムービーだった。
こなつ

こなつ