明石です

愛しのタチアナの明石ですのレビュー・感想・評価

愛しのタチアナ(1994年製作の映画)
3.7
ロックンロールに憧れるシャイな中年男二人が、ヒッチハイクで乗せた二人の女性と旅路をともにする。

朝のコーヒーがないことに苛立ち、母親をクローゼットに閉じ込めて旅に出てきたカフェイン中毒のシャバい田舎男が主人公(アル中もヤニ中もアキ映画にはたびたび登場してきたけど、カフェイン中毒もいるとは笑)で、お供の親友も、渋い口髭とは裏腹に奥手でいけず。女性と一夜をともにしても手も触れられない(いいぞいいぞ)。それなのに、どうしてこんな締まりのいい映画ができてしまうのか笑。並の作り手ならこんなダサい男たちを主人公にしてハードボイルドな物語を書こうなんて思わないものなあ笑。そして、モノクロでいっそう際立つカティ·オウティネンの妖艶な魅力。悪くない、どころかけっこう好き寄りの映画でした。

台詞はとにかく少なく、それも、肝心の男女間の意思疎通は、ロシア語とフィンランド語という言語の違いのおかげでまったくといっていいほどなされない笑。男女間の断絶以上に言語の断絶があるとは、、それでも想いは通じてしまう。そして彼らの想いの何分の一かは、観客にも共有される。カウリスマキ作品を10作以上見て気づいたことですが、男女がなぜ恋に落ちるか、その細部にいたる説明なんてはなから必要ないのかもですね。感覚的な物事を感覚的なままに残しておくことにもまた才能が必要とされるわけだし。

強いていうなら、モノクロよりカラーのがいいかな。あの赤青黄緑の原色に振り切った色使いがアキ映画の強み(なはず)なのところをあえて色を失くしたのが今作品での挑戦なのかもしれないけど。前衛作家が、特定の文字を使わない制限を自分に課して小説を書くみたいに。その種の、自作への挑戦を踏まえた上でも、色はあった方がいいなと思う。ウディアレンやフェリーニの映画なら色がないのも個性、と思い自然と受け入れられてしまうのだけど。
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