むっしゅたいやき

あんなに愛しあったのにのむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

あんなに愛しあったのに(1974年製作の映画)
4.3
「人生なんて、そうそう上手くは行かないさ」カラッもした笑い声と共に、そんな言葉が聞こえて来そうな作品である。
イタリアの名匠、エットーレ・スコラ監督作。
原題は『C'ERAVANO TANTO AMATI』。
人生賛歌の作品であり、同時にほろ苦い人生哀歌の作品でもある。

この作品は同志であった三人の男と、彼等を結び付け、時には解きほどく一人の女性の物語である。
戦後三人は病院の担架係、教師後に映画評論家、弁護士兼実業家として各々の人生を送るが、彼等の交情、別れと折々に挿入される当時のニュース映像とを通し、我々は戦後伊国の政情と世情、そして何より彼等のダメさ加減を観る事となる。
25年後の再会時、何故ジャンニが偽り、一人去ったのかが本作最大の見所であろう。

本作にはゲストとして、フェリーニとマストロヤンニ、更にデ・シーカが出演している。
彼等と同世代であり乍ら、本邦では認知に恵まれないスコラの面目躍如たる場面であり、両名のファンである私には嬉しい誤算であった。
また、この作品は映画愛にも満ち溢れており、作中にフェリーニ『甘い生活』やデ・シーカ『自転車泥棒』、アントニオーニ『太陽はひとりぼっち』の他、エイゼンシュタイン『戦艦ポチョムキン』、 ケン・ヒューズ『人間の絆』の一シーンが手を替え品を替え登場する。
各々撮影当時の世情や本作(「本作品自体へ」、また「作中人物へ」を問わず)への影響を理解する上でも押さえておきたい。

演出面に関しては、冒頭いきなり三度繰り返されるジャンニの飛び込みやメタ目線での解説、周囲を暗転させつつ人物へスポットライトを充てて心中を吐露させる手法に惹き込まれた。
また戦中はモノクロ、戦後混乱期にはセピアフィルタ、現代ではカラーと、色調を変える事でノスタルジーを与えつつ、作中での時期を分別し易くしている。

要所要所では、『マカロニ(maccheroni)』や『バールに灯が…(Che ora è?)』でも音楽を手掛けるスコラ作品の常連、トロヴァヨーリによるロマンチックで何処かメランコリックな劇伴が添えらており、作品に緩急を与えている。

『マカロニ』のレビューでも記したが、スコラの作品ではドラマチックな出来事はそうそう起こらない。
誰もヒーローにも、ヒロインにもならないのである。
それこそが人生であり、そんな人生でも満足し、等しく愛してゆく―。
そんなスコラの人生哲学がしみじみと伝わって来る作品である。
むっしゅたいやき

むっしゅたいやき