マルケス

愛を読むひとのマルケスのネタバレレビュー・内容・結末

愛を読むひと(2008年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

初見時、好きな作品だと思いながらも疑問が幾つも残った。あの時代のドイツで、若いハンナがなぜ文盲なのか、生い立ちが何より気になった。

前半の恋愛パートはすんなり入ってくる。15才のマイケル視点で抒情豊かに初めての感情が描かれる。
転じて後半は見落としたシーンがあった?と思うほど、ハンナの自死もマイケルの真意も理解できなかった。その後、何度か見返すうちにおぼろげだった輪郭が見えてきたように感じている。

ハンナとマイケルにはそれぞれ戦中・戦後のドイツ国民が投映されているように思う。
当事者世代であるハンナの認識はただ仕事をしただけ。生来の真面目さと責任感で。刑に服したハンナは文字を覚え、本を読み、過去の行動と向き合わざるを得なくなる。

戦後世代であるマイケルは収容所跡を訪れ歴史を学ぶが、過去から目を逸らそうとする。ハンナとの面会から逃げたり手紙の返事を出さないことからも、ある種の気まずさが伺える。
やがて娘に自身の過去を語れるまでになる。語り継ぐというドイツの意志を感じさせる。

多分、ハンナはマイケルの態度がどうであれ死ぬ覚悟だったのでは。ナチスと自身の罪を知った時、身なりなどどうでもよくなった。罪深さに絶望し、これ以上生きることは考えられなかったのではないか。

子ども達の歌に涙した教会と火事になった教会、オディッセイア、マイケルの詩、独房の本のタイトル。どれも意味があるようで、考え始めると嵌まってしまう。
愛と罪と恥を織り込んだ、美しくも重層的な作品だった。

※追記
原作にはハンナの出自についてロマを思わせる記述があると知った。この作品を理解する上で重要な鍵だ。
ハンナがロマなら文字が読めないのも、それを必死で隠し通したことも腑に落ちる。迫害され収容されるべき自分が看守を装っている。怖ろしい日々だったに違いない。
マルケス

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