鹿食わぬ犬

ラストキング・オブ・スコットランドの鹿食わぬ犬のレビュー・感想・評価

3.7
良い人だけど愚かな人(=ごく普通の若者、というか人)という主人公の設定は、人治主義の恐ろしさを描くのに理にかなっている。アミンやその周辺の暴力団が恐ろしいのは当たり前。迂闊な告げ口や迂闊なセックスで、あっさりと人を殺す(実際に殺してるのはアミンだけど)結果を招いたこの医者、言ってみればステアリングがピーキーな車を、それと知らずに運転し、人を轢き殺してしまったみたいな感じだろうか。

軽いノリでそのつもりもないのに、良い人が、あっさりと破滅的な結果を招くのが、徳のある人の善政に期待する人治主義なんですね。政治家の人気(人気政治家ではなく)ってのは恐ろしい(序盤のアミン人気…!)。

劇中で医者は、荒っぽくても暴力には暴力でというやり方がアフリカには必要なのだ、とアミンを擁護する。つまり、アミンを批判する連中は、アフリカの現実が分かっていない、というわけ。実に模範的なリアリストの理屈だ。

終盤、彼自身が暴力に晒されるとき、やはり彼も似たような理屈を見回れる。お前にとってはゲームだろうが俺達にとってはリアルなんだ、と。豪華な宮殿に住み、自分の気に入った側近に高級車を買い与え、何十万人も殺した人物にとっての自己正当化の理屈が、お前は現実を知らないんだー!、なのも、実にリアリズムらしくてよい。

フォレスト・ウィテカーの演技も好感は持てるのだが、何と言ってもイギリスの弁務官ストーン役のサイモン・マクバーニーが良かったー。
鹿食わぬ犬

鹿食わぬ犬