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エターナル・サンシャインのkaneのレビュー・感想・評価

エターナル・サンシャイン(2004年製作の映画)
2.5
この作品は何と言ってもシナリオの巧さが際立っている。絢爛な演出も加わり、クライマックスで全ての結び目が綺麗に解けていく感覚は素晴らしい。ここで注意しておかなければいけないのは、シナリオの巧さと映画の面白さがイコールではないということだ。

この映画で出てくるセリフを二つほど。
「忘却は前進を生む」
「忘却は許すことである」
これらを代入すると、
「許すことは前進を生む」
この映画が描いてみせたことはこれだけだ。終盤の展開には思わず息を呑み、このメッセージに感動を覚えたのだが、よくよく考えてみると物語自体は大したものではなく、繋がるシナリオの気持ち良さを錯覚していただけであった。

鑑賞後、主人公の2人のことをよく知れていない自分がいた。分かりやすく正反対な性格ではあるのだが、それぞれの思想というか信念と言うべきか、彼らの生きる上で大切にしていることがほとんど描写されていない。会話で少し匂わせているものの、投げっぱなしになっている。そのため、登場人物に感情移入しにくい上に、2人が惹かれ合う理由が見えてこない。愛だ!運命だ!と言われればそれまでだが、そうだとしたら相手を許すことは愛や運命に最初から包括されているのではないか?
シナリオ構造を優先したがために人物描写が疎かになってしまっているように思う。

これを言ったら元も子もないが、あのラストは本当の意味でお互いを「許しあった」のだろうか。嫌いな部分を認めたというよりは、諦めたのではないか?主人公たちは何も解決していないし変わっていない。
2人の出会いの瞬間が2回とも適当で、なんとなく恋に落ちてしまっているから成長の余地がない。

また、作業員たちの部屋のめちゃくちゃな振る舞いも単なる絵作りにしかなっておらず、最後の受付嬢の行為も物語を無理矢理完結させるためでしかなく、不自然極まりない。随所に乱暴な進行が見られ、確かに巧かもしれないが決して良くできているとは言い難い。

やはり人物から人間の感情が欠落しているように思われ、単なるシナリオの駒にされている風に感じる。
いくら巧みななぞかけかをしようとも、それが笑として優れているかはまた別のことである。
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