エソラゴト

エターナル・サンシャインのエソラゴトのネタバレレビュー・内容・結末

エターナル・サンシャイン(2004年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

真の幸福は罪なき者に宿る
忘却は許すこと
太陽の光に導かれ、無垢な祈りは神に受け入れられる
(アレキサンダー・ポープ)


忘却はよりよき前進を生む
(ニーチェ)





ふと目覚めるといつもと変わらぬ朝-。

主人公ジョエルは通勤途中、何かに導かれるようにある海辺の町モントークへと足を向ける。2月の肌寒い浜辺で青い髪をした風変わりな女性クレメンタインに偶然出会う。





正反対の性格の二人はお互いが惹かれあい、やがて交際が始まる。しかし些細な事で意見が合わず険悪なムード、そして喧嘩別れ。しばらくして仲を修復しようと彼女の勤務先に足を運ぶと信じられないことに彼女はまるで赤の他人の素振り。しかもあろうことか別の男とのイチャイチャを見せ付けられる始末…。

やがてジョエルは彼女がある脳外科クリニックで部分的な記憶を消去する施術を受けていた事実を知る-。



誰にでもいつまでも残しておきたい楽しい記憶もあれば、今すぐにでも消し去りたい辛くて悲しい記憶はあるもの…。この作品で描かれているのは「恋愛」において、恋愛感情を失なった相手の記憶を自身の脳から消し去る事で起こる一部始終とその顛末。


監督はMV出身のミシェル・ゴンドリー。脚本は『マルコビッチの穴』のチャーリー・カウフマン。

ミシェル・ゴンドリーの代表的なMVの一つ、ケミカル・ブラザーズの『Let forever be』では、主人公の朝の目覚めの憂鬱な感情を見事に映像化し、ミシェル・ゴンドリー自身の脳内を覗いているような摩訶不思議な出来栄え。

またチャーリー・カウフマンも脚本デビュー作、スパイク・ジョーンズ監督の『マルコビッチの穴』で正にジョン・マルコビッチの脳内に入り込むという脚本を執筆し、これまた奇妙奇天烈な世界観を披露。

そんな脳内フェチ(?)な2人が『ヒューマンネイチュア』に続き再びタッグを組み脳内の「記憶」「潜在意識」を題材に「恋愛」「感情」を絡めて出来上がったこの作品がつまらないはずがない、どう転んだって面白いに決まってる!


やがてジョエルも思う所があり彼女と同様に記憶除去手術を受けるも、その消去途中で一悶着一騒動な展開が待ち受ける。

やはり「恋愛」の記憶は楽しかったこともあれば辛かった事もある…いや楽しかった事の方が絶対多いはず!その全てを抹消してしまうことに彼の潜在意識が抵抗し始め、やがてジョエル&クレメンタインvsクリニックの博士&助手との壮大な脳内バトル(≒かくれんぼ)が勃発。

その描写は自身のMVよろしくCGを殆ど使わずアナログな手法で奇想天外な表現で描かれていて見ていて楽しくなると同時に不安や恐怖を掻き立てられるという不可思議なシーンの連続また連続。

やがてこの脳内バトルも終息し、彼の中の彼女の記憶は完全に消え去ることに…彼女の言葉だけを残してー。


「モントークで会いましょ」



今作の興味深い点は主演の2人ジム・キャリーとケイト・ウィンスレットのお互いが語るとおり、普段自分達が扮している全く真逆のキャラクターを演じているという点。ジムは理知的で話し下手で人見知り、ケイトは口は悪いが明るくて自由奔放な性格。配役とそのキャラの意外性もこの物語の面白さをより一層引き立てている要因にー。


そして…、

この作品はジョエルとクレメンタイン2人がメインの恋愛話なのだが、もう一つのサイドストーリーも物語の重要なカギを握っている。

それは2人が通院した脳外科クリニック「ラクーナ社」のハワード博士と受付嬢のメアリーとの関係。2人はもともと不倫関係で、メアリーの意志で自ら記憶消去の施術を博士に依頼するも、その後結局彼女は再び博士に好意を寄せることに…。

そして彼女はこの事によりこの施術の無意味さを悟り、患者全員に彼等自身のカルテを送り付けるという暴挙にうって出る。

この彼女の大胆かつ意外な行動が切っ掛けでラストのジョエルとクレメンタインのお互いのどこまで行っても分かり合えないことを分かり合うということ、そしてそれでもなおそれを承知の上で一緒に歩んで行きたいという感動的な結末に導かれていくー。

メアリー役のキルスティン・ダンストの表情や演技がとても魅力的でこの作品の影の主役いや真の主役と言っても…それはちょっと言い過ぎか?(笑)ただそれだけこのサイドストーリーは丸々一本スピンオフでも作れそうな心打たれる切ないお話に感じたのだった。(脇を固めるのもマーク・ラファロやイライジャ・ウッドな点も含めて)


エンドロールで流れるベックの"Everybody's Gotta Learn Sometime"も今作鑑賞後には心にとても滲み入る名曲。


果たして自分だったらこのような施術を受けるのだろうか?

「運命」という言葉は極力使いたくはないが、出会うということはお互いのほんの些細な行動の連続から起こるもの。それを踏まえると、「恋愛」だけでなく「人生」の楽しかったこと辛かったことは人生経験・体験の謂わば1セットのパック商品のようなもの…。それを自分の意志で消去除去するなんて実にもったいないし味気ないし何とも物哀しいー。


この作品は年月を置いて何度も何度も繰り返し観ることでその時々での感じ方や捉え方が違って新鮮な発見を教えてくれる、自分にとって大事な作品の一つである事は間違いない。