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追いつめられてのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

追いつめられて(1987年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

海軍士官のトム・ファレルは国防長官ブライスの就任パーティで出会ったスーザンと恋に落ちる。だが、ブライスの愛人でもあったスーザンは、嫉妬に狂ったブライスに殺されてしまう。一方、軍人としての優秀さが認められトムはブライスの下で働くことになり、スーザンを殺した犯人を突き止めるよう調査を依頼されるが…。

青春時代に劇場で見たのだが、内容をすっかり忘れて再鑑賞。
国防長官の愛人だった恋人が殺され、その濡れ衣をきせられた男の孤独な戦いを描いたサスペンスの佳作。
まさに「濡れ衣」とはこういうことをいうのだろう。

いくら若き日のケヴィン・コスナーがカッコいいからといって、冒頭ものの数分で美女と恋に落ちてベッドインするというのが、何ともアメリカンな展開。
スーザン役のショーン・ヤングは車の中でも部屋の前でも脱ぎっぷりがいい。
今なら「そんな尻軽な女性いる訳がない」と女性蔑視と見られてアウトかもしれない。
勢いに任せたワンナイトラブか?と思いきや、後々この恋が愛憎劇とサスペンスに発展する。

トム・ファレル中佐は、アメリカからマニラに戻る途中、甲板で見張っていたクルーが高波にさらわれた所を救助する。
新聞記事でこの救助劇を知ったデヴィッド・ブライス国防長官は、トムをペンタゴンに転属させる。
ソ連のスパイであるKGB諜報員ユーリを顔を知られていない優秀な人材=トムに内偵させるのが目的だった。

その後、パーティーで出会ったスーザンと再会したトムは、再び恋が再燃するが、スーザンがブライス長官の愛人だったことを知りショックを受ける。
なるほど、囲われ者のスーザンはまともな恋がしたかったのか?と少し納得。

トムをスーザンが自宅に招いた夜、男の気配に嫉妬したブライスがスーザンを問い詰め、誤って2階から突き落として殺害してしまう。
ブライスは殺すつもりなどなかったので事故、または過失致死と言えるだろう。
罪悪感にブライスは自首しようとするが、ブライスの法律顧問であるスコット・プリチャードが上司のスキャンダルで自分も地位を失いたくないのか、スーザンの家を訪れ、ブライスに関する証拠を隠滅。
スコットは彼女を殺したのはKGBのスパイ・ユーリだということにして事実を隠蔽しようとする。

しかし、実際に現場にあったブライス以外の証拠品は全てトムのもの。
秘密裏にスーザン殺人事件の捜査を任されたトムだが、証拠品を調べるうちに自分が犯人である証拠が次々と明らかになり、追い詰められていく…という展開。

前半のロマンス部分はやや冗長に感じるが、事件が起こってから後半のサスペンスは見応えがある。
何せ、自分が追う役目を負った犯人が自分なのだ。
何とかして、殺人犯は自分ではないという証拠を掴み、立証しなくてはならない。
ペンタゴンにいる職員も優秀で、現場にいたのは自分だという証拠を次々とあげてくる。
押収された証拠の中で、スーザンが撮り損ねたトムの写真のネガが解析される。
決定的な証拠となる写真の解析が終わる前にトムは、事件の捜査を装いながら潔白を証明するためにペンタゴン内を奔走する。

そこで目をつけたのがスーザンの家にあった宝石箱。
ブライスからのプレゼントだが、本当は外国からブライスへの寄贈品。
公務員への寄贈品はペンタゴンのコンピューターに登録されているため、ブライスとスーザンの愛人関係を立証でき、トム自身の濡れ衣を晴らすことができる。

数々の証拠が自身を指し示す中、トムはブライスへの寄贈品である宝石箱の記録をプリントアウトし、それを証拠にトムはブライスとスコットを追いつめるが、保身に走ったブライスは、トムを抱き込もうとする。
「アイツの言うとおりにやったんだ」と、今度はスコットに責任を押し付けようとしたところ、トムへの嫉妬とブライスに裏切られた怒りに任せて、スコットは拳銃で自殺する。
ブライスはスコットがKGBのスパイ・ユーリーで、正体がバレる前に自殺したと死んだスコットに「死人に口無し」と濡れ衣を着せて辻褄を合わせようとする。

トムもブライスも罪に問われず、苦い結末ながらも全てが解決したか?と思わせる中、証拠の解析が終わり、不鮮明だった写真からトムの画像が再生され、正体不明のKGBのスパイ・ユーリーはやはりトムだったのではないか?と疑われる。

尋問を受けるトム。
しかし、ここで意外などんでん返し。
尋問の相手はCIAではなくKGB。
トムは突然ロシア語を喋りだす。
KGBのスパイ・ユーリーは、実は本当にトムだった。
トムは自身の潔白を証明するだけでなく、KGBのスパイだとバレないために奔走していた…というオチだ。

「アンタッチャブル」でブレイクする前のまだ若いケヴィン・コスナーが精悍でカッコいい。
軍服もピタッとハマるスタイルの良さだ。
クールなだけでなく「虫を食べる」マネをするおふざけでお茶目な面も見せるし、スーザンの死を聞いて愕然とする演技には胸動かされるものがある。
バレるかもと狼狽えながらも頭をフル回転しているのが伝わるし、ペンタゴン内を逃げて走り回る躍動感も見せる。

しかし、政治がらみのサスペンスに若いコスナー一人では役不足と名優ジーン・ハックマンが貫禄の共演。
いつもなら強引で意にそぐわないとキレがちな役の多いハックマンだが、愛人を殺してしまった罪悪感に自首しようとする気弱なキャラクターを演じるのが意外だ。

そもそも自首しようとしたのだから、本作の一番の悪者は、事件を隠蔽して自分の地位を守ろうとした参謀役のスコットだろう。
しかし「この人のためなら死ねる」とまで心酔していた国防長官にアッサリと裏切られて自決するのが哀れだ。
知略が裏目に出る小悪党スコットに神経質なせいか髪の薄いウィル・パットンが思いの外ハマっている。
解析する写真にブライスが映っていると勘違いしたスコットに殺されたコンピュータ室のサムが一番の被害者と言えるだろう。

美男が狼狽えまくるサスペンスだけでも充分良かったのだが、最後の「実は本当にロシアのスパイだった」というどんでん返しは必要だったのか?と思ってしまう。
スパイとして潜入する素振り(伏線)もなく、唐突だという印象は否めない。
もしかしたら、トムがスーザンに近づいたのは男性版ハニートラップだったのかもしれない。(カッコいいし)
だとしたら、何の情報も掴めず、惚れてしまった女も失い、危うい目に遭ってしまったトムはかなり間抜けなスパイだ。
面白いエンディングなのだが、それを納得させる伏線が欲しかったところ。

キャストの演技も盛り上がるサスペンスの展開も申し分ないのだが、最後のツメが惜しいと感じるサスペンスの佳作である。
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