喜連川風連

タレンタイム〜優しい歌の喜連川風連のレビュー・感想・評価

タレンタイム〜優しい歌(2009年製作の映画)
3.0
マレーシアの名作映画。バーの店主のおすすめにて。

マレーシアは中国系、マレー系、インド系を抱えた多民族国家だ。
加えて中国系は仏教徒、マレー人はイスラーム教徒、インド人はヒンドゥー教徒でもあるため、日常生活からあらゆる問題を抱えている。

劇中、こうした偏見や差別にさらされかねない対象が多く登場する。

脳腫瘍(親の病気)、耳の障害、宗教間の対立、人種、成績の良い生徒への嫉妬、貧富の差・・・
これら登場する憎しみや苦しみを
他者への想像力で力強く乗り越えていくところに本作の魅力が詰まっている。

そして何度も何度も印象的に出てくるドビュッシーの月の光と女の子が詠む月の詩。

月はそれ単体で光ることはできない。
太陽に照らされて初めて光を得ることができる。

1人じゃ生きられない人間と1人じゃ輝けない月。
それぞれが重ね合わせられるように挟み込まれていた。
(ピンクフロイドの名盤Dark Side of the Moonは光に照らされない月の裏側が人間の深層心理になることを暗喩している)

こうした劇中空間は耳の不自由な男の子の一言に全て集約されている
「その人が幸せだと僕も幸せだ。彼女が苦しいと僕も苦しい。顔がしわくちゃになってもそばにいたいんだ。こんな感情初めてだ。」
監督の愛がにじんでいる。

世の中のアイドルコンテンツや二次元コンテンツや握手会は他者への想像力を必要としなくとも、安易に性的快感や、承認欲求や、愛を与えてくれる。

そんな世の中に本作は問いかける。

愛にできることはまだあるかい?
喜連川風連

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