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北ホテルの一人旅のレビュー・感想・評価

北ホテル(1938年製作の映画)
5.0
マルセル・カルネ監督作。

パリを舞台に、一軒のホテルに集う人々の哀歓を描いたドラマ。

ウジェーヌ・ダビによる1929年発表の同名小説を名匠:マルセル・カルネが映像化した長編第4作目で、本作はカルネが戦前に撮った映画の代表作となっています。

パリのサン=マルタン運河沿いに建つ一軒の安ホテル「Hotel Du Nord」に集った、経済苦を理由に心中を図った若いカップルや過去を抱えた倦怠期の中年カップル、ホテルの気のいいオーナー夫婦ら様々な事情を抱えた人々を描いた群像劇風味の人間ドラマで、まだ未来のある若いカップルをルネ・クレール監督の『巴里祭』(33)で出世したアナベラ&ジャン=ピエール・オーモンが、傲慢な街娼と追われる男の訳あり中年カップルをアルレッティ&ルイ・ジューヴェのコンビが存在感たっぷりに演じています。

事情を抱えた二組のカップルの孤独と葛藤と愛情の行方を中心に、運河沿いの安ホテルに集う庶民の哀歓を見つめた良質な人間ドラマで、運河に架かる橋を男女が渡るショットで冒頭と終わりを結ぶ円環構造もよく考えられています(冒頭と終わりのショットでは意味が全く異なる)。

オールセットで撮影された運河沿いの風景の大掛かり&ハイレベルな美術に驚かされますし(ホテルや運河自体が作り物)、モーリス・ジョーベールの音楽も適材適所に効果を発揮しています。

蛇足)
よく知らない小太りおじさんに「俺の血を輸血して君を助けたんだ」と言われたら普通の女子は気持ち悪がるだろうし、今の時代だったら“セクハラ”で一発アウトだと思う。
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