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北ホテルのpikaのレビュー・感想・評価

北ホテル(1938年製作の映画)
4.0
やっぱりさすがのカルネ。めちゃくちゃ良い。スロースターターというか、語り口的にそうせざるを得ないとは言え序盤がダラダラしていて若干野暮ったいが後半は前半の反復をしたり反転したりと活かしてガンガンキメていくのでテンションぶち上がる。円環の締め方もスマートで良い。
群像劇的なメロドラマを単なるお話として見せない。記号的になりかねないキャラクターに多面的な人間味を生ませ、愛で死ねる叙情感たっぷりなステレオタイプな設定を掘り下げ哲学的な人間ドラマに変えてしまう。ベタな寓話ぽい導入から現実的な方向へとシフトすることでその差異に興奮と喜びが生まれる。
舐めるようにカメラを移動して「北ホテル」を見せるオープニングは結構衝撃的。ホテルや川、橋なども作り込んだ大規模なセットが凄い。線路は絵なのか写真なのかセット感強かったけど汽車の蒸気に味があって良い。
ミニマムな世界の中だけど感情が変われば景色も変化するってのが絵的に見事に表現されていて素晴らしい。
詩的リアリズムゆえか少し台詞で語り過ぎなキライもあるけど堅実な演出やカメラにふんだんな説得力がある。川や船や動く橋(名前がわからん)の挿入で『人の関係や人自身は常に移ろい続ける』みたいなことを擬似的に語っているんだろう、その意図と絵的な魅力が若干マッチしきれていないのは残念。
フィクショナルな、寓話的な話でありながら人間の感情は型にはめられるものではないと謳っているかのようで、人工的なセットの中で作られた虚構のドラマなのにキャラクターが一人の人間として思考し生きているかのように見えてくる。役者がいいからクローズアップが気持ちいい。活き活きとした感じが演技から演出から映画全体から語られていて素晴らしい。
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