のっち

北ホテルののっちのレビュー・感想・評価

北ホテル(1938年製作の映画)
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日常と愛のミルフィーユ

献血の話で盛り上がるような北ホテルの住人の庶民的な陽気さと、無理心中に失敗した悲劇の主人公ルネの悲壮感が折り重なり映画のバランスを保ちつつ、男と女の愛についての台詞が全体を引き立たせます。
心中に失敗したルネは相手の男をなんとか忘れ、北ホテルで出会った男と逃避行をしますが、やはりはじめの男が忘れられず結婚するという見も蓋もない展開です。しかしルネの揺れ動く心情が詩的に語られることで、男と女の愛のままならなさが説得力を持ちます。
ルネが逃避行をやめてパリに戻り無理心中をしようとした男に愛を語るシーンでは「あなたも私も乗りかけた船を降りたのよ」「君と僕には違いがある。男の死を望んだか?」「もっと残酷よ彼に夢を見させた」とあり、男への救いを投げかけつつ、もう一人を残酷なまでに落とすやり取りがたまりません。
更にこの逃避行相手のロベールは「天井桟敷の人々」のピエールを彷彿とさせます。惚れた相手に余裕をかましながら近づき、うさんくさくも一途な愛を体現する人物として共通点が見られます。相手役がアルレッティというのもポイント。
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