荒野の狼

COACH コーチ 40歳のフィギュアスケーターの荒野の狼のレビュー・感想・評価

5.0
40歳でプロのフィギュアスケーターをしている西田美和の現役復帰と、西田と小松崎夕楠(元恋人の子供で血縁はない)の親子の情にも似た心の交流の二つがメインテーマの108分の映画。西田が実像に近いことや、実際の選手たちが実名ででてくるので、ドキュメンタリーのような印象すら受けます。西田は等身大の役柄のためか、初主演とは思えない自然な演技。色んな要素が詰め込まれた作品にもかかわらず、うまくまとまっています。
作品のすべての要素が好きという人はいなくても、いくつかのシーンは、人それぞれに、好きなシーンがあると思われます。多少のバックグランドがないと共感できないシーンもあるとは思われますが、見終わってから出演者の情報を得て納得、といったシーンも多いと思われます。
英語のナレーションや表現などが、随所に挿入され(”Pig might fly” “Blue rose”の花言葉)、多少バランスのとれない印象もありますが、一見、情が薄いと思われていた小松崎が、必死に英語の“表と裏“の意味を探り、西田をサポートしようとするシーンは感涙もので、このシーンだけで満点を与えたい。
スポ根漫画から出てきたような平泉成(回想シーンではなんと長髪!)が、絡んでまだ誰もやったことのない技ブルーローズを西田が完成できるかという過程には、フィギアスケートとは、本来はスポーツとしての高いオリジナルな技術を競うものなのだというメッセージが感じられます(中高年の人なら、映画”空中ブランコ“の三回転とか、体操の”月面宙返り“など思いだされるのでは)。
多彩な配役の中で、この人は誰だろうと思うような魅力的な人物が続々登場します。たとえば、空手チャンピオンの砂川久美子選手が、短いシーンですが、切れのある素晴らしい蹴りを見せます。元宝塚の和泉佑三子がスケート場のレストランの若店長として好演。同じく元宝塚の森ほさちが、小松崎夕楠の母親役として、美しいが育児放棄をしている母親役として登場。
西田が”コーチ“という仕事について質問されて、(やりがいについて)答えに詰まるシーンがあります。明快な回答は映画では描かれていませんが、西田の隠れ中年ファンの本当は心優しく正義感にあふれたコーチを応援する姿勢や、弟子を思わせる安藤美姫と西田の幻想的なスケートシーンの中に、回答の一つはあると思われます。
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