春とヒコーキ土岡哲朗

木更津キャッツアイ ワールドシリーズの春とヒコーキ土岡哲朗のネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

大切な時間も、過去にしないといけない。

アニの「もう帰ってくんね?」は木更津キャッツアイにしかできない名シーン。死別した友人との再会の物語で、「いつまでいるんだよ」とうっとうしがるのがクライマックスに来るなんて大胆。それが言葉とは裏腹に、感動も含んでいるのがすごい。
余命が半年と聞いたときのぶっさんは、「普通」に生きることを目標に掲げた。しかし、今回のぶっさんはアニ、マスター、うっちーに「普通なのはバンビだけ。バンビが就職したからって焦って普通になろうとすんな」と言う。それも暖かい言葉ではあるが、それでもアニ、マスター、うっちーも普通に、大人にならなきゃいけない。大人になろうと踏み出しているときに、まだ昔のままで居続けようという絆の束縛は厄介。それを断ち切らないといけない空気が充満し、アニがはっきりとぶっさんに言った。
それは過去の絆派=ぶっさんにとって寂しいことではあるが、ぶっさんも4人と同様に過去にすがるのをやめて進む心構えが整う瞬間でもある。「もうおれたち、ぶっさん必要ねぇって言うか」とバカなアニだから言えるストレートな表現。それに対してぶっさんも、「つまり何が言いてぇんだよ、アニ」と、アニに名指しで続きを促す。性格上、きちんと言うべきことを言えるのはアニだけだとぶっさんも理解して、自分に引導を渡す係をアニに任せているのが熱い。このあまりにぶっきらぼうな辛辣な言葉が名シーンになっているのは、汚い言葉で、ださく地元に固まることを尊く描いた木更津キャッツアイだから。

完結編で新しい試みも。前作とは打って変わり、中盤でようやく一回裏が来て、終盤で小さな「裏」を畳み掛ける構成。昔見た時は、表と裏を満遍なく配置した『日本シリーズ』みたいにして欲しいと思った。でも、実際は今作も満遍なく表と裏を繰り返せるような、「実はこうでした」連発の脚本になっている。おそらく、それも検討した上で、変えたのだろう。終盤の畳み掛けがあることで、ずっとぶっさんがみんなの近くにいたのがより強調されて、絆と依存を強く印象づけている。

本作でぶっさんの死が初めてはっきりと描かれて、ようやくぶっさんの寿命設定の役割がまっとうされた。テレビシリーズも日本シリーズも、死んだ後の描写はしつつも、「結局ぶっさんはもうしばらく生きました」というオチを続けた。それこそが、いつまでも地元でくだまいている状態。もう死んで3年経っているのを蘇らせる今回の設定は、ただ死の瞬間を描くよりも「いつまでやっているんだ」感が強く、とてもこの作品にあっていた。