噛む力がまるでない

沖縄の民の噛む力がまるでないのネタバレレビュー・内容・結末

沖縄の民(1956年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

 日活が1956年に製作したアジア太平洋戦争における沖縄戦を描いた作品である。

 全体的に緊張感のある良い作品で、血肉が飛び散ったりするような残酷描写はないが、そのかわり銃撃や爆撃がかなりの迫力で見ていて何度もぎょっとしてしまった。画面の奥から手前に迫ってくる硝煙などの見せ方もうまく、突如として恐ろしい音が上がり、たくさんの人が殺され、いろんなものが破壊されていくシーンだけでも見る価値はあると思う。
 そしてやはりこの時代の作品は戦中を体験したスタッフや俳優で作られているので、空気感がかなりリアルである。本土の座組みなので沖縄戦をとことん描くには足りない部分もあるかもしれないが、それでも多数の犠牲を払った悲惨さと再建への希望を強く感じさせるものがある。とくに戦後、沖縄への引揚者に向けた福地一朗(金子信雄)のスピーチは、戦争という消費活動の虚しさがよく伝わる台詞になっていて胸が痛む。

 見所のひとつは、日本人同士に生まれる緊迫感がとても皮肉だということだ。避難先の壕を空けろと言われた住民が見上げる日本軍の姿がまるで敵兵に見えたり、米軍に協力した太田光一(長門裕之)が日本兵に降伏してくださいと説得するシーンも非常に無益なものとして描かれていて、要所要所でそういう視点があるのは破壊だけではない戦争の悲惨さを浮かび上がらせている。