シズヲ

ベスト・キッドのシズヲのレビュー・感想・評価

ベスト・キッド(1984年製作の映画)
3.8
カラテ道場に通う不良達と対決することになった少年が、カラテの達人である日系人のもとで鍛錬に臨む。本作がヒットしたことでその後も4作目までシリーズが続き、後年にはジャッキー・チェンによるリメイクや主要人物らの後日談的作品が作られている。監督がジョン・G・アヴィルドセンということもあり、話運びも含めて何処となく『ロッキー』のような味わいを感じられる。

筋書き自体は奇を衒ったものではなく、師であるミスター・ミヤギに鍛えられる主人公の成長とガールフレンドとのロマンスが並行して描かれていく。率直なサクセス・ストーリーではあるものの、やはりイノセントなダニエルさんと彼を鍛えていくミスター・ミヤギの交流が良い。何処かユーモラスな雰囲気を漂わせつつも要所要所で本質を突いた助言を送るミスター・ミヤギ、演者であるパット・モリタ氏の存在感も相まってとても味わい深い。

中盤の雑用めいた鍛錬のシーンは絵的な地味さもあって些かフラストレーションを感じる節はあったけど、最終的にはきちんと実を結ぶので何やかんや受け入れてしまう。そしてミスター・ミヤギが披露した“鶴の構え”が終盤のダニエルさんの窮地を救うことになる展開もベタながら憎めない。ただ最後を飾るミスター・ミヤギの表情はとても良いとはいえ、ラストはもうちょっと余韻が欲しかった。

改めて振り返る本作、“イタリア系の冴えない少年が日系の老人に鍛えられ、白人のジョックに挑む”という筋書きなのが興味深い。WASPの上流家庭であるガールフレンドとは対照的なダニエルさんの下層階級ぶりといい、主人公達のマイノリティ性がさらっと描かれている。イタリア系・ユダヤ系・アフリカ系など、多人種社会としてのアメリカの縮図をさりげなく描いていた同監督の『ロッキー』に近いものがある。

特に印象的なのはミスター・ミヤギの人物造形であり、彼が戦時中に第442連隊に所属していたこと、妻子を日系人強制収容所で喪ったことが作中で明確に触れられる。酔い潰れながら過去を振り返ったミスター・ミヤギが零す「自由の国なのに何故医者が呼べない?」という一言、戦時下〜戦後において日系人という立場が背負ってきたものを端的に示している。こうした設定のおかげでミスター・ミヤギは単なる“エキゾチックなアジア系老師”に留まらず、アメリカの風土や歴史を前提にした奥行きが生まれている。それだけに彼がダニエルさんにカラテや形見の道着などを託していくこと、ダニエルさんが彼の想いを継承していくことの深みが増す。
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