りょう

ゆれるのりょうのレビュー・感想・評価

ゆれる(2006年製作の映画)
3.9
重たい映画で心を上書きしたくて、気になっていた「ゆれる」を鑑賞。

東京に飛び出し、華やかな世界で活躍するカメラマンの弟と、田舎で家業のガソリンスタンドを父と継ぐべく、慎ましく生きていた兄。母の葬式をきっかけに二人と、幼なじみの智恵子の運命が…。
「ゆれる」のタイトルの通り、三者の揺れる心を描く。

なんといっても兄の稔を演じている香川照之の演技が半端なかった。刑務所での面会のやり取り、法廷での証言、そして最後の笑み…。最後はどう捉えたらいいのか。

元々母の死後、父とガソリンスタンドの仕事をしつつ、家事もこなし、彼にはなんの楽しみもなかった。唯一彼の生きる糧と思える智恵子とのやりとりも、猛の帰省により奪われて(もちろん稔も猛と智恵子の関係に気づいているはず)、そんな中、智恵子の死の原因を作ってしまった。
腕の傷から稔は殺すつもりはなかったと思われるが、なんで猛の証言をそのまま受け入れたのか…。

もうあの生活に戻りたくなかったのではないか。彼は猛との面会の時に、ガソリンスタンドを貯金はたいて改装しようとしていた。セルフもできるように、中もカフェっぽくして…など彼なりの夢を楽しみを持ってたけど、出所した後も小さな町では智恵子を殺した人として後ろ指さされる生活になるのは目に見えているし、父も高齢だし。それであればもう猛の証言を受け入れてしまい、誰も知らないところで再出発しようと思っているのではないか。だから最後のシーン、バスに乗り、家には帰らなかったと思う。

一方、猛だが、稔の無罪を勝ち取るために奔走し、兄を想う弟として振る舞うが、稔とのやり取りの中で、それは自分自身の保身のためのように思えた。今まで全然実家なんて帰って来ないのに、兄の裁判や面会にはたびたび帰省してた。

こうやってあからさまに言語化しないけども、役者の表情や仕草、会話から感じる心の「ゆれる」様が、どういうことなんだろうと考える余地を与えてくれるし、この映画の面白いところだった。

「永い言い訳」が結構好きで、まだ「素晴らしき世界」は見れていないけど、西川美和監督好きだなぁ。
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