大道幸之丞

ゆれるの大道幸之丞のネタバレレビュー・内容・結末

ゆれる(2006年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

オダギリジョーファンなら堪えられない作品だ。最初から最後までベストコンディションのカッコいいいオダギリジョーを堪能できる。

母を亡くしワンマンに拍車がかかる父親早川勇(伊武雅刀)、好きな写真を仕事にするべく東京へ出て成功している弟早川猛(オダギリジョー)父親の生業であるガソリンスタンドを切り盛りする早川稔(香川照之)。母親の葬儀も兄からの連絡で駆けつける猛、この場面と悶着からドラマが始まる。

ガソリンスタンドには猛の昔の彼女川端智恵子(真木よう子)が働いている。稔と仲良く仕事をする姿に嫉妬した猛は、昔の彼女でもあり、垣根も低いと感じたのか、車で送りつつ部屋に上がり込むや性交に及ぶ。

ところが翌日3人で遊びに行った渓谷の吊橋で智恵子が落下、亡くなってしまう。肝心の落下に至るまでの場面が示されないので観ている我々も真実がわからない。

——この作品は裁判の場面が主だ。叔父である早川修弁護士(蟹江敬三)に猛は大金を支払い兄の無実を晴らすよう依頼する。実は早川修と兄の早川勇の関係もまた稼業を継いだ勇とやりたいことをやりに実家を出て大学から弁護士となり、稔と猛に似た構図がここにももう一つある。

裁判が進む中、当初こそ兄を救いたい一身だった猛だったが、兄との面会を重ねるなかで「お前は本当に俺が無罪と信じているのか」と問い。「最初から疑ったまま最後まで信じない姿こそ俺から観たお前の本当の姿だ」と稔に言い切られ、猛の中で何かが壊れ、証人として法廷に立ちながら兄が決定的に不利となる証言をし稔は7年の実刑判決となる。

7年後、ガソリンスタンドアルバイトの岡島洋平(新井浩文)が突如家族連れで猛の元を訪れ、ともに食事をする、ここで洋平は稔が出所する事と、法廷で最後にとった猛の行動を責めながら、出所した稔をスタンドに戻して欲しい事を告げる。

帰宅後、葬儀の際に「母親の形見」と言われて持ち帰っていた8ミリフィルムと映写機を映写すると記憶になかった、勇に連れられ家族四人で行った渓谷の映像を眺める中で、智恵子と稔の一部始終の記憶が蘇る。涙が溢れ、その足でガソリンスタンドに向かい兄を迎えに行くが、すれ違った上で車上から兄の徒歩姿をみかけ声をかける、目が合った兄は笑顔を返す。

——兄とともに仲良く仕事に勤しむ智恵子に嫉妬を抱くと同時に女性に奥手で不甲斐ない兄を煮え切らないモノも感じている。猛の心境は複雑だ。

それが吊橋での出来事を考える視点に濁りを生じさせている。真木よう子がほぼすっぴんの垢抜けない姿であったり、西川作品にしてはオダギリジョー、香川照之、伊武雅刀、蟹江敬三とトーンの強い配役で固め、脚本も演出も水も漏らさぬ仕事で質の高い作品としている。また場面ごとに「撮りたい構図(アングル)」がぴしっと決まっていて、スチールカットのようなメリハリがあり見事さにハッとさせられる。

兄と弟という関係は当人にしかわからない関係性があり、他者がいかんともし難い。稔と猛の関係がドラマが進む中でどう変わっていくのかを追えるかがポイントだと思う。観るべき作品だ。