ひこくろ

ひとり狼のひこくろのレビュー・感想・評価

ひとり狼(1968年製作の映画)
4.3
見慣れていないせいもあると思うけど、とても新鮮で面白く観られる時代劇だった。
渡世人がどんな稼業でどんな風に生きているのかがわかりやすく伝わってくるのがまずいい。
お世話になってる家のご飯は二膳までとか、布団は一枚しか使わないとか、さりげなく細かいところまで描かれているので、観ているだけで、渡世人稼業がよくわかった気になれる。

そして何より、市川雷蔵が素晴らしいほどに格好いい。
もともと二枚目だとはわかっていたけど、お酒を飲んだり、布団に入ったりするような、どうでもいいシーンまで格好いいのには、ちょっと驚いた。
細かいところは分からないが、たぶん所作とかが美しいのだろう。
観ていて男でも惚れ惚れするほどに、格好いい。

物語は、噂の人斬りを巡るもので、その男を見た孫八の語りから始まる。
主人公は人斬りの伊三蔵だが、視点はあくまでも孫八からのものなので、伊三蔵の本心がなかなか見えてこないのがたまらない。
何を考えているのかわからない、最強の男、という存在が、これまた市川雷蔵とぴったり合っている。

映画が進むにつれ、伊三蔵の過去が明らかになっていくのも現代に通じる作劇だと感じた。
なぜ、伊三蔵は渡世人になったのか。彼が望んでいることは何なのか。
明らかになるにつれ、それまで謎の存在だった伊三蔵に人間味が増してくる。
ラスト寸前の「坊主、よく見とけ。これが人間のクズのやることだ」のひと言は、その裏の意味も含めてぞくぞくとさせられた。

いろんな要素が入っているのにコンパクトにまとめられていて、しかもとてもわかりやすい。
殺陣もいろいろと凝っていて、それぞれに見応えがある。
さらに、任侠物としても、単純にビジュアル面でも美しい。
何より観ていて楽しい。

渡世人の映画を観たことがない人で、ちょっと興味があるという人にぜひにおススメしたい。
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