Kazuho

河口のKazuhoのレビュー・感想・評価

河口(1961年製作の映画)
4.5
出てくる場所々々が今でも訪れることのできるところであり、“東京”を存分に楽しめる懐古的作品。銀座にイーストサイドという喫茶があったのかと思い調べたが、やはりインターネット出現以前に消失していたようで、ネット上では確認が取れなかった。それでも尚、「数寄屋橋前の交番」など今に通ずる言葉を聞き取ることができる。また、国立西洋美術館のエントランス前のオーギュスト・ロダンの銅像を背景にやり取りが為されるなど、処々で飽きのこない発見がある(尤も、本質的な映画の楽しみ方かと言われるともちろん反駁の余地は有るのだが)。

演技の面でも悉く逸品で、前半、角井(東野榮治郎)から身請けを談判される白川(岡田茉莉子)に対して、観客が気付かない程度に、蔑むような一瞥を遣るなど、非常に緻密。東野榮治郎演じる角井の演技も圧巻。こういったユーモラスなやり取りはどこか態とらしい、ともすると浅はかな演技になりがちだが、全くの自然で以って観客をクスとさせる。あれだけの演技ができる人間は残念ながら現代にはいない。また、館林(山村聰)の演技も小気味よく、岡田茉莉子、東野榮治郎、山村聰の細やかで、ユーモアもありながら、ウィットに富む掛け引きが、本来重い内容の筈の映画を軽やかな作風に仕立てている。

時代柄ありそうな、男尊女卑の価値観が通底したストーリーかと思いきや、そこはやはり中村登、後半に進むにつれ女性側の強かな快進撃が続く。まことに、良い作品でございました。
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