不在

マッチ工場の少女の不在のレビュー・感想・評価

マッチ工場の少女(1990年製作の映画)
4.4
主人公イリスは本にしか興味がなく、他国の凄惨なニュースにも他人事で、ただ言われるがままに生きている。
抑圧された環境によって自主性を奪われ、狭い世界で生きる事を強いられているのだ。
男を見つける為にクラブへ通い詰めるが、それも恐らくは小説の真似事であって、そこに主体性はない。
そんな彼女には、悲しいかな誰も寄りつかない。

しかしある時、イリスは親に黙ってドレスを買う。
両親への反抗という行動を通して、初めて彼女の意志や主体性が見えてくる。
ここでイリスは外面としてのドレスと、少しだけ成長した内面、二つの物を手にした。
しかし前者しか見ようとしない男によって、彼女は破滅へ向かう。
追い詰められたイリスは、まさに小説のような行動に出るのだ。
恐らく彼女は単純な勧善懲悪、つまり悪人を殺めても罪には問われないヒーローものばかり愛読していたのではないか。
だから彼女の取った行動は、本人にとっては当然の帰結なのだ。

人の人生というものは、一時こそ衝動や激情を帯びる事もあるが、結局は規則的で単調なものだ。
まるで工場のライン作業のように、決められた結末に向かって淡々と進んでいるだけ。
彼女はその途中でマッチに火をつけた。
燃え尽きたら、捨てられてしまうことも忘れて。
不在

不在