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マッチ工場の少女のthornのネタバレレビュー・内容・結末

マッチ工場の少女(1990年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

貧相な少女が、派手なドレスを着たら(義父には売春婦と罵られていたが)本当に彼女の別の顔が立ち現れる様は素晴らしかった。

男を家に呼んだ時にテーブルに飾ってある花の悪趣味さ(まるで仏花のようだ)きちんと化粧してる母親が下品だと思った(褒めてます)。娘の働いた金で誕生日プレゼントを買う母。それを喜ぶ娘。ほんとにしみったれた嫌な関係だ(褒めてます)。

無職の義父と専業主婦(というか、なにもしてない)母のために能動的に働く娘。ヤングケアラーなんて言葉がなかった時代ですよね。そもそもケアラーになるほど母親歳取ってないけどね。

少女を社会と繋ぎ止めているのはこの関係性だけなんですね。それが不意の妊娠で絶たれたことが後半につながっていく。

わたしは妊娠したことを男に知らせるために彼女がしたためた手紙の文字の美しさに鳥肌が立ってしまったんだよね。すこし泣きそうにすらなった(なぜかはよくわからない、とにかく字が綺麗なんだよね)。でも男から送ってきた手紙は機械打ちの1行だけ「処分してくれ」文字の冷たさ。それと、小切手のみ。

少女は男は普通には家に入れてくれないと理解したのか、金を返す口実に家に入れたのか?男に毒をもったときに渡したのは金か?

少女を聖人でも、悪人でもなく描いてるのは好感。

全てが終わった後のタバコを吸う彼女の目はとてもいいですね。殺人者の目をしている。
そして、いままでの彼女と違って、生き生きとした目をしている。

この悲惨な結末こそが、彼女が生を初めて実感できる瞬間だった、というのはなんとも..そのクソッタレな世界に最後に一石を投じたわけだ。
天安門事件の学生たちよりも彼女の方が..と思わせるところがある。
実際にあった、例えば永山則夫事件とか、経緯に共通項があると思います。
天安門事件と永山則夫の連続殺人事件のどちらがシリアスかといわれるとなんとも言えませんが。

美しい、素晴らしい映画だと思います。
そして、カウリスマキらしい省略と抑制された画面が、現実の世界の出来事と接続されていくのを感じた。乾いている..。

毒で殺して一瞥もしない、というのは強い怨恨を感じる。怖いですね...愛が憎しみに変わる瞬間。地味ですが、恐ろしい映画です。
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