うめまつ

マッチ工場の少女のうめまつのレビュー・感想・評価

マッチ工場の少女(1990年製作の映画)
3.8
冒頭のダンスホールで独り取り残されるシーンから身につまされて、イリスに肩入れするしかなくなってしまう。ショッキングピンクのヘアゴムが、金銭的にも世間体的にも着飾る事を許さない同居人(継父で良いのかな?)や、この状況に対する彼女のせめてもの抵抗に見えた。そしてポニーテールが結ばれる位置は未来への希望がすり減る度に下がって行く。

薬局で買った薬を私は自分に使うのかと思ったけど、イリスはそんなやわな女ではなかった。己の悲劇のヒロイン思考を戒めなくてはならない。決定的なシーンを見せずに前後で起こった事を伝えるミニマムな演出は、北野武監督の手法に通ずるように思う。無口なイリスに代わって音楽が雄弁過ぎるほど語ってくれるのも面白い。ともすればカラオケ映像みたいにチープになりそうだけど、そうならないのは彼女が常に胸の内の感情と闘っているからかな。映画見ながら無表情でビシャビシャに泣いてるとこと、夜の植物園で読書しているシーンが好き。

『枯葉』で主演されたアルマさんが「人生で出会った中で一番短い脚本。慎重に選ばれた言葉が使われている素晴らしい文学。」(要約)だと言っていたけど、基本どの作品もそうなんだろうな。(ちなみに「アキは沈黙の巨匠。そして1行のスーパースターなんです」とも言っててかっけぇ。。ってなった。) 70分という短さだけど物足りなさを感じないし、小さな物語だけどその分深く狭い場所に入り込む。昨今話題?のタイパという言葉に苦手意識があったけど、まさにカウリスマキ監督は最高のタイパフィルムメーカーなのではないかと思う。
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