Tatsuokacho

美しき抵抗のTatsuokachoのレビュー・感想・評価

美しき抵抗(1960年製作の映画)
4.5
 北沢彪が演じる父親と高野由美が演じる母親には3人の娘がいる。父親は大学での研究に没頭し、家族をかえりみない。母親はそんな父親に従順に付き従う。こうした両親を娘たちは「封建的」と非難する。しかし、母親がよく口にする「おとうさんは8年間も兵隊に取られていた」ことが行動原理になっている。戦争中の父親の長い苦労に対する敬意と、陽には語られないが無事に帰ってきてくれたことへのありがたさの表れなのだ。この映画を見た昭和30年代の日本人は誰もが戦争中の苦労を思い出したであろう。次女の子育てのエピソードとして語られる庭の飛び石を使った歩く練習は、たぶん空襲のある東京で父親不在の心細い中での話だろうと想像できるし、三女(吉永小百合)の人形劇でのセリフ「脱走兵はギロチンじゃぞ」からは、戦後生まれであろう三女でさえ兵隊に取られることの辛さがわかっているのだ。そして、夜に母親が父親に語るのを娘たちが寝床から聞いているシーンでは、「封建的」というレッテルがいかに薄っぺらいかを思い知らされる。若い女性への教育的映画を意図して当時は作られたのだろうが、戦後の平和が映像からあふれ出ている。当時の日本人は誰でも戦時下の苦労と平和な時代の明るさをこの映画から感じたことだろう。
Tatsuokacho

Tatsuokacho

Tatsuokachoさんの鑑賞した映画