映画漬廃人伊波興一

あふれる熱い涙の映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

あふれる熱い涙(1992年製作の映画)
4.6
田代廣孝の「あふれる熱い涙」は90年代の日本映画の抒情を全身に受け止めた貴重な作品として21世紀に継承させる価値があると自信を持って断言いたします。

公開時、大御所脚本家桂千穂先生が絶賛。同じく大御所荒井晴彦先生が「ヒドイ映画だ」と「映画芸術」誌上での衝突を楽しませてくれました。
評論家の上野昴志さん、山根貞夫さんも好意的。

普段は刺激的な発言で知られる方々の話題に上がりながら何故か今、忘れ去られようとしている危惧から年末のこの時期に唐突ながら敢えて取り上げてみたくなりました。

新藤兼人監督のもとで修業を積んだ田代廣孝監督と佐野史郎、戸川純、ルビー・モレノらが文字通り全身全霊で体当たりで挑んだ「真摯」という言葉に相応しい力作です。

「差別」という最も厄介な主題を扱いながら押し付けることなく「映画的抒情」に浸透させていく、という難技を田代監督は処女作とは思えぬ力量で私たちに呈してくれます。

ちなみにシナリオにかなり尽力してくれた佐野さん。田代監督は共同脚本というクレジットをご提案されたそうですが
「私は役者だから結構」
と辞退されたそうです。