しげのかいり

ボディ・ダブルのしげのかいりのレビュー・感想・評価

ボディ・ダブル(1984年製作の映画)
4.5
ヒッチコックの晩年の作品はサスペンスそのものを自己言及的に表現する作品だった。そこではそれまでのヒッチコックが観客の心情を左右させるために要請された演出術そのものがメタ的な主題になっていたわけだが、この作品はメタサスペンスを極北まで進めており、ヒッチコックがイギリス時代に用いたような意味での演出として使われることはない。むしろ異常な心情を違和感のまま摘出することだけが要請され、ヒッチコックの時のように観客がすんなりと「異常が異常に見えない」スタイルではなく、明らかに狂った人間を見せることに成功している。第一いちいちカメラが動くが、そこに何の意味があるのか。ほぼないわけだが、ただ一つこれが「まがいもの」であることを観客に伝えるためのものである。観客は最初から最後まで、この紛い物の異常な性愛と距離を近づけることなく終わり、ラストでダブル・ボディの撮影風景が映される。ヒッチコック以後のサスペンスの不毛さを不毛さのまま引き受けたグロテスクな傑作。明らかにヒッチコックに限らずラングやウォルシュに比べれば精緻とは言えない画面が艶かしく今でも光り続けている。