初めて会ったのは疲れて帰る電車の中。左手首に目を奪われた。誰にも理解はされない。耐えられなくなって女房にも逃げられる。会社ほったらかして待ち伏せ。急に降り始めた強い雨。傘を振り切って走る。流れる音楽全部ずるいほど良い。
三万もした裏ビデオ。ポケベルの呼び出しを切る。公衆電話に無数の広告。線路を挟んだ向かいのホーム。インスタントカメラに写して綺麗だよ。街中でのすれ違い刹那を三度繰り返す。十八時に新宿中央公園で。時間を過ぎても金網の奥。可哀想だから一度くらいならって。封筒を微笑んで拒み何も言わずに後ろ腕を差し出す。身体を洗う泡の下に水着の日焼け痕。薄暗い部屋でまずそうな飯。憎むのは夫ではなく泥棒猫。寒くないよう上着をかける。たったひとりで誰も愛せず獣道さまよってきた。
